ドリーム小説
「調査をします、か。…動けないって言われるよりはマシかもしれないけれど」
頬杖をついて、は届いたメールをゴミ箱フォルダに放り込んだ。
「審神者の手元にない刀剣って、どんな風なのかしら」
自らをコレクターと名乗るくらいだからそれなりの知識を持っているのかもしれないし、案外一般人に下げ渡された事が問題なだけで、刀剣の方は気楽に納まっているかもしれない。
「考え過ぎかな」
重いため息を吐いた時、「ちゃーん」と一色の声が響いた。
「あ、はーい!」
慌てて腰をあげて部屋から出る。
小走りで玄関まで向かうと、箒を手に立っている一色。そして一色を囲んでいるちびっ子たち。ぐるりと見回して、は呆気に取られた声を上げた。
「てつしくんに良次君、椎名くんまで、どうしたの?」
「よ! ねーちゃん」
「おじゃましまーす」
「リョーチン、靴は揃えなきゃ」
「あ、そっか」
の脇をすり抜けてトコトコと屋敷へ入って行く子どもたち。何事、と忙しなく首を巡らせていると、一色はむふふと下世話な顔で目を細めた。
「ちゃん、お泊りだそうじゃないか。これはあれだねぇ、龍さん妬いちゃうかもだねぇ」
完全に面白がっている。
面白がっているが、それよりもお泊りと言う単語の方が引っかかる。
「あの一色さん、お泊りって?」
「え? あのツンツン頭の子が言っていたけど?」
「てつしくん、どういう事!?」
首を巡らせると、三人揃ってブイサイン。見ると三人とも重そうなリュックを背負っていて、真ん中に立つてつしは胸を張ると、ドンと叩いた。
「今日から俺たち、ねーちゃんちでしょくばたいけんなッ!」
「これ、政府からの許可証」
「しょ、職場体験――――――!!!????」
許可証は本物だった。
「どうやって手に入れたの? これ」
ぽかんとしているを前にして、良次は得意気に鼻を擦った。
「へへぇー、こう見えて俺たち、ケッコー知り合い多いんだぁ」
「龍さんとか?」
「蒼龍はケチだからな。マーカスに頼んだ」
ケチって。
秋音や夕士が聞いたら卒倒しそうな単語である。
てつしは息を吹きかけて茶を冷ましながら、椎名を横眼で見た。
「サー・マーカス…なんだっけ?」
「サー・マーカス・ヴァレンタイン卿。魔弾の射手」
「魔弾の、射手」
何だかよく分からないが多分すごい人なのだろう。
つまり裏を返せばこの三人は、そんなすごい人とお知り合いになれる程首を突っ込んでいると言う事で、改めて書類に目を落としたはうぅんと唸った。
「でも親御さんにはなんて説明したらいいのか」
「あ、ヘイキ、ヘイキ」
「俺たち、二三日家帰らない事とかあるしね」
「子どもは転がしとけってのが教育方針だから」
「あ、そうなの? いやでもそうは言っても、審神者って結構現世と縁の薄い仕事だから、あんまりおすすめ出来ないし」
「つー訳でねーちゃん、刀見せてくれ!」
「あ、てっちゃんずるい! 俺も!」
お茶を一気飲みしたてつしが部屋を出て行く。良次もその後に続いて、最後まで言えなかった唇を閉じるタイミングを逃したが呆けていると、椎名はふっと笑った。
「前も言ったと思うけど、諦めた方がいいよ。あの二人、ああなったら手が付けられないから」
「…そうだったね」
その日は一日、てんやわんやとなった。
短刀達に囲まれると背丈も変わらないので目の保養になるかと思いきや、かくれんぼの鬼になってしまったはくたびれるまで本丸を探し回るハメになったし、
夕飯時になると、厚にする調子で子どもたちにジャイアントスウィングをしようとする次郎太刀を押し留めるのには骨が折れて、
ようやく夜も更け、敷いた布団の上に倒れたは呻いた。
「身が…もたない…」
「ねーちゃん、体力ねぇなあ」
「引きこもりなもので」
ちなみに短刀用の予備布団を持って来て、今日は四人で就寝だ。
全身疲れたが早くもうつらうつらし始めた時、良次が袖を引く。
「ん? どうしたの、良次くん」
「寝ちゃ駄目だよ、おねーさん」
「え、何で?」
「何でって、ねーちゃん困ってる事があるんだろ?」
は瞬いた。
困ってる事、と言われて浮かぶのは、当然下げ渡された刀たちの現状な訳で。
てつしはニッと歯を見せて笑った。
「ねーちゃんを助けに来たんだ、俺たち」
「おねーさんは、俺たちを守ってくれてるんでしょう? だから、俺たちも力になりたいんだ」
「相談してよ、さん」
「てつしくん…、良次くん、椎名くん…」
じーんと胸に染み入るようだ。
はうっかり緩みそうになった涙腺を締めると、起き上がる。正座をしたと、あぐらをかいた三人で円を作ると、顔を寄せ合った。
「じゃあつまり、どっかの審神者が、自分の刀をあの成金オヤジに売ったって事?」
「うん」
「審神者の給料ってそんなにすくねーの?」
「…うん、まあ…。戦績とか、本丸の規模にもよるのよ。でも自給自足しないと成り立たない、かな」
「じゃあまずは給料上げて貰うとか?」
「そんな所から始めたら終わらないだろ、リョーチン」
「それもそっか」
てへへ、と良二が笑う。
「とにかくねーちゃんが気になってるのは、売られた刀がどういう風に飾られてるのかって事なんだろ?」
「うん」
「じゃあ、センニュー捜査だな」
「潜入捜査!? で、でもでもわたしとしてはなるべく刀たちを巻き込みたくないの。見たくないものを見せちゃうかもしれないし…」
「ふっふっふ」
てつしは顎をなぞりながら、不敵な笑みを浮かべた。
「そんな事だろうと思ったぜ」
「そんな事だろうって言ったのはおやじだろ、てっちゃん」
「まあ細かい事言うなよ、椎名。ねーちゃん、貸して欲しいモンがあんだ」
「ん? 貸して欲しいもの?」
「愛染って奴の服と、秋田って奴の服と、薬研って奴の服」
「……へ?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたの前で、三人はそれぞれ得意気な笑みを浮かべた。
「センニュー捜査しようぜ! ねーちゃん!」