★刀×無双より。



「不公平だと思いませんか」
そう言われて顔をあげると、明らかに機嫌の悪い陸遜と目があった。
それだけで逃げ腰になってしまうのはもはや習性に近い。
一、二歩と後退さったあと、「何が?」と尋ねれば、彼は精悍な目元に険を帯びたまま詰め寄ってくる。

「わたしがどのような想いで貴方を追って来たと思ってるんです?
それなのに貴方と言えば、このような屋敷で男たちに囲まれて…」
「…まあ、男たちを否定はしないけれど、その前に刀たちってつくからね。刀剣男子」
「刀剣だろうと男子ではないですか」
「まあ正論」
壁に背中が触れた。
すなわちそれはもう逃げ場がないと言う意味で、ちらりと背後を見たあと、陸遜へと視線を戻す。

どういう理屈か知らないが、女審神者を追ってこの世界へと来たらしい陸遜は審神者になっていた。
あの時の驚きと言うか、恐怖は、未だに記憶に新しい。
今逃げたらてめぇの本丸に火ぃつけるぞコラ(脳内ではこう変換された)と脅され、
手持ちの刀と共に本丸へと押しかけてきた陸遜は、それ以来我が物顔で生活している。
むしろ後輩なんて名ばかりで、仕事が出来過ぎる陸遜に、日に日に狭くなっていく肩身。
もろもろの不平不満を口にできるはずもなく、まっすぐと見据えてくる天才軍師の視線が痛くて、視線を逸らせた。固唾をのむ。
呉の赤い華やかな服から、赤いジャージへと着替えた陸遜はおもむろに手を伸ばしてきた。
びくりと身体が震える。
陸遜の手は髪をかすめると、壁についた。

どうやら腰を浮かせての全力横ダッシュはバレていたらしい。
目が泳ぐ。
「貴方が考える事なんてお見通しですよ」

ですから、と続けた陸遜は、瞳を細めた。

「貴方はわたしだけを見ていればいいんです」


*+*+*
そうすれば公平です。
と、この後には続いたはず。

元々このセリフは、テイルズの派生小話でアビスを書いて、ジェイドに言わせたかったのだけれど、
それはそれでまた今度別に書いても楽しいかもしれない。

要はこのサイト、刀剣乱舞と無双で成り立ってきたけれど、ずっと拍手は刀剣乱舞しかなかったですよね。それって不公平ですよね、って言う陸遜の主張でした。

確かに、ごめん







★無双OROCHIより。戦国キャラも出ます。



「顔が怖いわよ」
尚香に肘で突かれて、慌てて笑顔を取り繕った。
両の頬をほぐすように円を描くと、ぐぅっと吊り上げて尚香に首を巡らせる。
「…もっと怖いわ」
「……ですよね」

三国合わせ、さらに戦国まで加わった飲み事はてんやわんやだ。
誰がどこに座っていたとして、猪口を抱えて歩くには遠すぎる。
凌統と甘寧の姿はとうの昔に見失っていて、尚香に誘われるまま足を向けたのは女子の集まり。
こういう華やかな場はどうにも苦手でやきもきしていたところ、そこに、郭嘉が花に吸い寄せられたような態で歩いて来た。
稲姫と星彩の間に座って、上機嫌な郭嘉を睨んでいた事がバレた罰の悪さを酒で流し込んでいると、ねぇねぇ、と明るい声が割って入ってくる。
首を巡らせると、ちょこんと動くひとつ結び。
大きな瞳を瞬かせながら首を傾げた小喬は、郭嘉を指差した。
「二人は恋人…なんだよねぇ?」
「ぶっ」
吹き出した酒。
ごほごほとむせていると、尚香が背中を撫ぜてくれる。

無邪気。無邪気っておそろしい。
背筋を震わせると、全力で首を横に振った。
「違います!」
「えぇ〜? そうなのぉ?」
ついで入って来たのは、酒で頬を朱に染めた甲斐姫だ。
ここに鮑三娘が入れば、確実に色恋沙汰の話へと引っ張り込まれる。
中座しようと腰をあげた肩を誰かが掴んだ。押し戻されて顔をあげると、にんまり笑う鮑三娘。
「逃げる事なくない? こういうのって、ハッキリさせた方がすっきりするし」
「こういう所でハッキリすっきりさせる話でもないような」
「えぇええぇー、もういいじゃぁん。なんか、見ててくすぐったいし」
「ちょっとイライラもするのよね。リア充、爆発しろ、みたいな」
「じゃあ見なければいいのに」
小喬、甲斐姫の言いぐさに口ごもる。助けを求めるように尚香を見ると、彼女は瞬いたあと、苦笑した。
「うぅん。見ててやきもきする点は、否定も出来ないのよね」
「そぉだよぉ。郭嘉殿だって、来たと思ったら全然違う所座っちゃうしぃ」
「睨んでる割には口出さないし」
「アレが関索だったら、ぎったんぎったんのけっちょんけっちょんにして」
「パンにしますか」
「…パン? って何?」
「…なんでもありません」
もういっそ、新しい顔だよって言いながらどこかへ消えたい。
一刻も早くこの場を立ち去りたくてしょうがなくなったので、鮑三娘の拘束を力任せに振り切って去ろうとすると、星彩が「待って」と、抑揚のない声を上げた。

「席を立つなら、連れていって」
「立たなくても、連れて行って」
継いで稲姫が声を上げる。

切実な二人の声を受けて、微笑む郭嘉。
「だそうだけれど。どうするつりかな。わたしとしては、このまま二人で闇に消えるのもやぶさかではないのだけれど」
「消えないよ」
「それは残念だ」
のらりくらりと郭嘉は笑う。
その仕草を見ていると、なんだか無償に腹がたってきて、眉間に皺が寄った。

「って言うか。稲姫と星彩に囲まれて幸せそうにしてた口で、よくそういう事言えるよね」

言うと、郭嘉は驚いたような顔をする。
僅かに見張った瞳が、緩やかに弧を描いた。
「そうか。貴方にはそう見えたのか
」 「…は?」
「わたしが座っているのは、星彩殿と稲殿の間ではなくて、貴方の前のつもりだったんだけれど」
「…」
「もっと言うなら、幸せそうに見えたというそれは、貴方のふくれ面があまりに愛らしかったから…かな」

「――ッ! い、いけしゃぁしゃぁと…!」

ボン、と耳まで赤くなる。
真っ赤になった顔を持て余して四苦八苦していると、郭嘉はさらに笑みを深めた。
「態度だけでは、貴方は足りないようだからね」


そんな二人を見ながら。
「そういう所って話なのよね」
甲斐姫がポツリとつぶやいて、尚香が頷く。
「早くくっついちゃえばいいのにね」
小喬が胸やけしたように手をあてる傍ら。
鮑三娘は低く声を上げた。
「いっそ二人とも伸してパンにしたいんですけど」


*+*+*+*
場所が違えば、一番うっとうしいカップルになっていただろうこの二人。
以来、ぎったんぎったん(以下略)があまりに長くて、パンにするという言葉が流行りました。







具合が悪い。
調子よく進めていた杯を止めて、青っ白い顔を抑えた。
「どうしたんだ?」
「ちょっと、具合が…」
「顔が真っ青よ! もう、張飛殿に合わせて飲むから!」
劉備の傍らに座っていた尚香が声をあげて駆け寄ってくる。
背中を撫ぜられると、緩く頭を振った。
「おっしゃる通りで。もう今日はやめておきます」
「なんでぇ、せっかくこれからだって言うのによ」
「これ翼徳。あまり飲ませるな」
不満気な張飛をいさめる劉備。
大丈夫か、と声を掛けられて、慌てて頷いた。

「大丈夫です。すみません」
「こちらこそ、翼徳がすまない。みな、趙雲の祝いの席だと張り切っていてな」
「…みたいですね。なんか、申し訳ない」

もう一人の主賓である趙雲は、馬超と馬岱に担がれて、向こうの席へと挨拶に出向いている。
歓迎会と言うよりは、むしろ趙雲おめでとうと言わんばかりの祝賀会。
蜀の中で趙雲との話がどれだけ浸透しているのかは、考えるとちょっと恥ずかしくなって頭の隅へと追いやった。
「あの、劉備殿…いえ、殿」
「どうした、そんなに改まって」
「いえ。これからは誠心誠意仕えますので、どうぞよろしくお願い致します」
頭を下げると、瞬いた劉備は穏やかに微笑む。
「こちらこそだ。蜀を…そして趙雲を、よろしく頼む」
「は…はぃ…」
覚悟はしていたが、いざ面と向かって言われると気恥ずかしい。
狼狽してうつむくと、張飛の物と思われる大きな手が頭に乗っかってきた。ぐりぐりと力任せに撫ぜられる。
「よし、祝いだ。もう一杯飲むぜ」
「これ翼徳。もう飲ませるなと――」
「何言ってンだよ、兄者。祝いの席で飲む以外に何があるってんだ。酒入れるぜ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「もう本当に飲まないほうがいいわよ」
「張飛殿。それくらいで勘弁頂きたい」
割って入って来た声に顔をあげると、趙雲が立っていた。
いつもは涼しげな顔が、眉間に皺を寄せている。
「どうしましたか、趙雲殿」
見慣れぬ不機嫌な態に尋ねると、趙雲は答えず、劉備に向き直った。
「殿、我らはこれで」
「ああ、趙雲。また明日もよろしく頼む」
「ありがたきお言葉」
帰るらしい。
立ち上がると、くらりと景色が回った。
足に力が入らない事に遅れて気づいて、支えもないまま後ろによろめく。
「わ」
その背を支える力強い腕。
「ありがとうございます、趙雲ど――ぅぇ!?」
ひょいと俵に担がれて、呆気にとられたまま視界が回った。

「こ、困ります。歩けます」

聞く耳も持たぬ態で歩く趙雲。
そのまま何人かに挨拶をするので、恥ずかしくなって酔って伸びたふりをする。
やがて大股で歩く趙雲が人波を抜けると、弱った声を上げた。
「あの、趙雲殿」
「無理をなされるな」
「へ?」
「張飛殿の酒に付き合うなど、無謀が過ぎる」
「イケるつもりだったんですが…申し訳ない」
「謝ってほしいわけではない」
趙雲は短く言うと、しばしの間をあけて、付け足した。

「…ただ、あのように乱れた姿。あまり他の男に見せるのは、控えて欲しいだけだ」

「…」
「……」
「………」

沈黙。
たっぷりと時間をかけて押し黙ったあと、おそるおそると尋ねる。
「…それはその、俗にいう…嫉妬と言うヤツですか…?」
「そうなるな」
潔くうなずく趙雲。
その肩の上で「わ」と声をあげると、両手両足を動かした。
「趙雲殿、下ろしてください」
「断る。このような顔、見せたくない」
「その顔が見たいんです――!」
「見せたくはない」
「見たいです」
「ならば見せたあと、先へと進まれる覚悟はあるか?」
「さ…!? 先、ですか」
先と言えば。
思い当たる節は一つしかない。
頭によぎったその先に、急激に酔いが冷めていく。瞳が右に左にと泳いだ。

「いや。まだそれは早いような…」
「わたしからすれば、随分とかかったのだ。ようやくここまで来て、みすみす帰すつもりもないのだが」
継いで趙雲は、言いながらかすかに笑った。
「祝いの席で、飲む事以外にもすることはあろう」
「いや、そんな、え」
「下ろすぞ」
「こ、困ります…! 抱えててください…!」
「なら、おとなしくしている事だな」

あっけらかんと言われて、ようやくからかわれているのだと気が付いた。
悔しくなって、口先を尖らせる。

「なんか、趙雲殿が余裕で悔しいです」
「余裕などない。貴方にお逢いした日から、一度たりとも」
真摯な声音に、息がつまる。
ちらりとのぞくと、趙雲の耳が世闇にまぎれてかすかに赤みががっていた。
己の熱い頬に意識が向く。

(多分、今同じ顔をしてるんだろーな)

それはきっと、幸せな話。

*+*+*+*+
三国跨いでパンクになったver
2017.06-2017.010、拍手ありがとうございました。