ドリーム小説
ぽかぽかと暖かな陽気に誘われるように瞳を伏せたが噛みしめるように「学校って幸せ」と言うと、
「今日びの学生でそんな事言うのはアンタぐらいだって」と友人は苦笑した。
「そんなに家が嫌なもんかね」
「嫌って言うか、シンドイ?」
「贅沢な悩みだ」
「皆が夢見すぎなのよ。実際はそんなにいい話じゃないし」
「二年連続ミスター六角の姉が?」
「そう」
「ファンから夜道で刺されても知らないわよ」
ミスター六角、もとい佐伯虎次郎。
次期生徒会会長候補だけでは飽き足らず、来年部長になるのではないかと評判の弟で、
爽やかな甘いマスクに気取らない性格は下級生だけでなく上級生にも評判がいい。
は頬杖をつくと、ポテトチップスを頬張った。
「同じ人の腹から生まれて、同じ物食べて、どうしてああなったのか…あ、間食のせいかな?」
「原因はポテチか。…確かに、アンタ絵に描いたような平凡娘だもんね。言い方変えると地味」
容赦ない指摘に、う、と言葉に詰まる。
否、あの弟を持ったものの定めなのだ。
佐伯の姉を一目見ようと集まったギャラリーに、
「え、あの人が?」やら「ほんとに兄弟?」やら言われ続けたら自然とそうなって行くというもの。
「ほら、化粧だって続けるとだんだん化粧に合わせて顔が薄くなっていくって言うじゃない?」
「化粧映えするようにね」
「だからわたしは自然と、虎次郎映えするようになっていったのよ。虎次郎はわたしに感謝するべきだわ」
「そんなものかねぇ? いい弟そうだけれど」
「とってもいい弟ですとも。母さん居ない時の買い物には絶対ついて来てくれるし、荷物はどんなに重くても持ってくれるし。
絶対に車道側歩くし、私ですら王子様だと思うもの! でも、そこが嫌なのよ!」
日差しが照りつけるテニスコート。
一瞥しては物憂げに肩を落とした。
「友達の家に遊びに行った時に姉弟関係ってこう言うもんなんだって凄く驚いたんだ。
口を開けば憎まれ口でさ、家の事なんか一切手伝わない。部屋を空けたらエロ本あるんだって。
そう言うの普通だよって言われて尚更ショック」
「…王子、持ってないの?」
「こっそり探したけど無かった」
「マジか」
テニス部のやつらまた騒いでるぜ、とクラスの男子が話しついでに笑っている。
約束もしてないのに自然とメンバーが集まるんだ、一緒に居ると楽だしね。
佐伯が苦笑していたの思い出したは、痛みを覚える。
「虎次郎に気を使わせてるんだなって思ったら…なんか家に居づらくてさぁ」
「直接気を使ってるのか聞いてみたら? 素でそう言うキャラなのかもよ」
「素であんな出来た人間居るわけないじゃん。それに、聞いてもうまくはぐらかされるだけだし」
「ふぅん。ま、兄弟だしね。そんなに気疲れしてるなら、骨休みにウチに泊まり来る?明日休みでしょ」
「行くー!」
思わぬ誘いにわーいと手を挙げた。
「虎次郎に言っておく」と携帯を取り出す彼女を見て、 「普通まず親に言うもんじゃない?」と友人は苦笑を零した。
「ウチ基本放任主義だから一言言ってっておけばいいんだけど。
泊まりに行くの虎次郎に言ってなくて、親に聞くまで探し回らせた事があったんだよね」
「…気を使ってると思われてる割には過保護ね、王子」
送信完了。
携帯から手を離したがポテトチップスに手を伸ばした時、震える携帯。
「早っ。しかも電話だし――もしもし?」
『姉貴、今日泊まりに行くの?』
開口一番尋ねられて、は瞬く。
「うん、そうしようかなと思って…なんか問題ある?」
『いや、母さん達が仕事遅くなるって言ってたからね、久しぶりに姉貴と食べるケーキでも買って帰ろうと思ってたんだ。駅前のケーキ屋、確か好きだっただろう?』
「好き」
『新作のケーキが出たってクラスの女子が教えてくれたからね』
「…」
『ブルーベリーのタルトと、チェリーパイ。秋の期間限定だってさ。確か今日までって言ってた気がしてね』
「泊まるの…今度にする」
「はぁ!?」
携帯片手に上機嫌な佐伯に「サエさんどうしたの?」とダビデが訊ねると、
「ん。親に今日は外食していいよってメールをね」
佐伯は満面の笑みで応えた。
「仕事じゃなかったの?」
「嘘も方便って言うだろ?」
ぎょっと目を見開いたダビデの隣で、「こいつが王子様って呼ばれてる辺り、だまされてるよなぁ」と黒羽がぼやく。
世の中間違っていると感じるのはたいてい佐伯絡みだ。
お目当ての子が居ると公言している佐伯が、なぜあれほど女生徒皆に愛想を振りまくのかと訊かれたところ、
「俺のせいで好きな人が悪評たてられたら嫌だろ」
さらり相手が姉である事を暴露した男である。
あの時は樹が驚きのあまり鼻息で亮の帽子を飛ばしたり、首藤の影が一段と薄くなったりしたものだ。
「お姉さんと言えば、サエさん、いい加減ウチにある本取りに来て」
「何だ?サエ、ダビデの家に本置いてんのか?」
「うん、エロ本」
ぎょっと目を見開いたメンバーの視線を一身に集めた佐伯は、「俺もオトコノコだからね」と爽やかに笑う。
「…サエがエロ本って想像付かないあたり」
「俺達も洗脳されてるのねー」
「もうすぐ剣太郎が入学してくるだろう。次は剣太郎の家に置かせてもらうから、もう少し預かってくれないか、ダビデ」
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昔書いていたのを読み漁っていたら、何これ好きってなって手直ししました。