ドリーム小説
「あのさ」
「何だ」
支度をしながら、リヴァイは紅茶を飲んでいる。
決して飲み終えたカップを、のように置きっぱなしにして出て行ったりなどしない。キチンと洗って、拭いて、棚に直して出掛けて行くのである。
その棚にはカップが増えた。雀の涙ほどの給金を酒に費やすでは、到底買えないような紅茶も増えた。
調査兵団に身を置いて長いのに一度も袖を通した事のない制服が――しかも、男物の制服が増えた。
ここ数日で増えたもろもろを数えて、の視線は再びリヴァイへと戻る。すると、無愛想な瞳と目があった。
「さっさと言え」
「いや…あのさ。なんでそのリヴァイは………、わたしの部屋から出ていって、わたしの部屋に戻って来るのかな。そして一緒に寝るのかな」
住んでいる、なんて言葉は恥ずかしくて選べない。
それでなくても兵長と高名であるリヴァイが、自分の部屋からではなく、の部屋から出て来る話しは瞬く間に調査兵団内へと駆け巡った。
顔を合わすたびに、好奇心やら、羨望やら、嫉妬やらさまざまな角度から「兵長と一緒に住んでいるんですか?」と尋ねられるは、
その度に「住んでない。何でか居るだけ!」と傍から聞けば舐めているとしか思えない返答を繰り返すしかない。
でも本当なのだ。何故かいるのだ。
ハンジやナナバ、ミケなどと酒を持ち寄って集まった四日前、朝目が覚めたら、当然のような顔をしてリヴァイは居た。
「居ちゃマズイのか」
心底どうでも良さそうに言われて、はコンマの速さで首を横に振る。
「嫌、マズイでしょ! どう考えてもマズイよね!? だってわたしたち、ただの友達だし!」
「まあそうだな」
「そうだよね!?」
言いながら、は内心胸を撫でていた。
酔っぱらって倒れたは当然ながら、どういう経緯でリヴァイが居るのか覚えていない。
服も着ていたし、身体も痛くないし、間違いを起こしていないのだけは確かだったのだが、うっかり口約束をした訳でもないのがここに来て証明できた。
一方、安堵すると疑問が首をもたげる訳で、は訝しげな眼を向ける。
「そもそも、リヴァイの方が絶対いい部屋を宛がわれてるよね? しがない食堂のお姉さんより、絶対いい部屋住んでるよね!?」
「ならお前が俺の部屋に来るか」
「行かないよ! なんでそんな納得した顔でこっち見るの!?」
「チッ、面倒な奴だな」
「こっちの台詞だよ。もうやだ、ホントめんどくさい! リヴァイ、めんどくさい!」
そもそも今は英雄視されているこの男だが、元々はエルヴィンの首を狙って兵団に入って来たのであって、
勝手にエルヴィンとの仲を勘ぐって、探し物をが預かっているのではないかと部屋に忍び込んで来た事もある。
うっかり叩きのめしたあの日から考えると、友達付き合いをしている今も不思議だが、一緒の部屋に居るなんて、懐かしいネットなら、
リヴァイとww 一緒に暮らすwww
とでも変換されるべきである。
まあ男性経験は少ないとはいえ、昔は呑んでザコ寝なんて良くあったし、
この世界に比べてあっちの世界は飲みやすい酒も多かったから、ホームに集まった時なんて、毎日飲み潰れてザコ寝だったようなものだったけれど、
さすがに。いや、さすがに。
何でいるかも分からない男を部屋に置いておくのはどうなのか。
「やっぱりリヴァイ、どう考えてもおかしいとおも――って、ギャッ」
目の前に、やたらめったら整った男の顔。
驚いたは後退さった。
「なら何でなにも言わなかった」
「は?」
「俺じゃなくても置いたのか」
「いや、それは……」
言いかけて、口を噤む。
ある朝目覚めてミケが居たら。
もしかしたら、蹴り飛ばしていたかもしれない。
(ごめん、ミケ)
想像なのに謝って、は取り繕うように口を開いた。
「置いた…かもしれないし、置かなかったかもしれないけれど、その話は置いておいて、
とにかく付き合ってもいない、ましてや何をする訳でもない男女が同じ部屋に居るって言うのは世間的にどうなのかな、と」
「それもそうだな」
思わぬ相槌に、は期待の眼差しを向ける。
表情に変わり映えのない男と目があって、は務めて明るい声で手を叩いた。
「ね? だから、何を考えてるか知らないけれど、とにかくリヴァイは自分の部屋に――」
は固まった。
いつだって一ミリと表情筋の動かない男が笑っている。それもまたなんと凶悪な笑顔の事。
「オイ。十秒やる。考えろ」
「は?」
「俺が何で手を出さなかったのか。ただ考えたってお前は分からないだろうからな。ヒントもやる」
「は? ちょ、ま…」
十、九、と良く分からないカウントダウンが始まる。
待って、ヒントもまだだし、 意味も分からないし、
反論しようとした言葉は何一つ口を出ぬまま、金魚のように開いたり閉じたりするの唇。
「三、二」
リヴァイの顔が近づく。
そこから連想される行為は一つしかなくて、悲鳴をあげようとしたの前で、リヴァイは口を大きく開いた。
「イィ!?」
首に走る強い痛み。
びっくりするくらいの電流が全身を駆け抜けて、は涙目でリヴァイを睨んだ。
「リヴァ…ッ」
見た事もない。恍惚な表情を浮かべるリヴァイ。
唇についているのはのは血で、ゾッとするにリヴァイは口端を針で引っかけたように微笑んだ。
「お前にしては上出来だ。朝には遅れるが、今から一緒に暮らす理由をくれてやる」