ドリーム小説

「蜀陣に書簡を持って行くくらい一人で出来るんだけれどなあ。よく分からない世界だからって、孫権様も練師様もちょっと過保護過ぎるんじゃあ…」
ぼやいていると、門に隠れている二つの影が目に留まった。

(甲斐姫に、くのいち…だっけ。二人揃ってるなんて珍しいわね。出刃亀かしら)

好奇心に背中を押されそうになって、ふとは首を傾げる。

(今わたし、なんで出刃亀してるって思ったんだろう)
歯にものが挟まったよう。
違和感を気持ち悪いなあと思いつつ、陸遜を見なかったかたずねてみようとして、

「シ――ッ!」
口を塞がれたは甲斐姫に物陰へと押し込まれた。
「邪魔しちゃ野暮ってもんですぜ」
「邪魔?」
「今いいとこなの!」
にやにや笑う二人の視線の先、辿っていくと出刃亀されていたのはなんと陸遜だった。傍らに立っているのは井伊直虎。
びっくりしてしまったは出掛った言葉を飲み込んでしまう。

「陸遜さんのようにきちんと出来なくて、お恥ずかしい限りです…」
「私など若輩者。まだまだ学ぶことばかりです」


穏やかな声音に、低姿勢。
は瞼を擦った。
(え、陸遜…だよね)
見間違いかと思ったけれど、間違いなく陸遜である。


「直虎殿は十分立派に務められていると思いますが」
「と、ととととんでもないです! 立派だなんて、そんな…。私、もっともっと頑張らないと…」
「家の為、そして主君のためにさらに力をつけたい、その気持ちは痛いほどよく分かります。ふふ、私たちは似た者同士なのかもしれませんね」


(huhu煮た物同士sぽlbgfrhj)

おできを治す簡単な薬でも調合する気か。
あまりのショッキングな映像に脳内変換を間違った。

(……さささささ詐欺罪だ…っ。訴えたら勝てるレベルだ…!)
「時空と場所をも超えた大恋愛ってヤツじゃない?」
「前途多難を薪に、恋が燃え上がちゃいますねぇ」
下世話に笑う甲斐姫とくのいちの呑気な事。は呆れた目を向けたあと、微笑む陸遜に視線を戻した。
(確かにそう言われると…お似合いよね。こう見たら爽やか青年と美女だし)
爽やかを一枚めくれば中身は真っ黒焦げだというのに、ちっともそんな素振りを見せない。
ひとたび口を開けば胃の痛い思いをするはなんだか腹立たしくなってきて、鼻からふんと息を吹きだした。

(いつの間に好青年になったのやら! 鏡に映されて出て来た偽物なんじゃ)





映された、偽物。
いたく自然に浮かんだその言葉を胸の内で反芻する。
(映された…偽物? そんな話をどこかで…)


『なんかさ、と話してると………戦いは無駄じゃなかったんだって、思える気がする』

『ならば仙界に来るか』



『   様の為にお願ーい!』
『絶対嫌! 無理だから、  、無理だから! いやあああ誰か来てぇえぇえええ!』





「……え?」
心臓が、どくりと跳ねる。
「どうしたの? 
「どっか具合でも悪いのかにゃー」
見下ろす甲斐姫とくのいちがぶれて、重なる。

『水臭いわね。どうしたのよ、
『猪姫様、拾い食いでもしちゃいましたかねぇ』

呼吸もままならない。
が硬直していると、くのいちがサッと姿を消した。顔を顰めている陸遜と目があう。
殿?」
「あ」
ひゅ、と浅い息を吐いたは甲斐姫とくのいちの姿がない事に気付いて、心臓を宥めると、平然を繕った。

「…いつからそこに?」
「話し込んでいるようだったから待ってたの」
「声を掛けて下さって構わなかったのですが」
「急ぎのようじゃなかったし」

笑ってみせると、ひとつ滑り出た嘘が止まらない。
なんてことない顔をしては書簡を持ち上げる。

「蜀陣へ書簡を頼まれたのよ。一応陸遜に伝えて出ようと思って」
「……まさか一人で向かわれる訳ではありませんよね?」
「甲斐姫とくのいちと一緒よ」


嘘と見破られそうな気がしていけない。
早い所後にしようと直虎に会釈していると、陸遜は珍しく慌てた声を上げた。
殿…! これは…っ」
「ん?」

陸遜の視線が泳ぐ。
開きかけた口を噤んで、少し笑った。

「いえ何でも。…このような状況です、くれぐれも妙な事には首を突っ込みませんよう」
いつになく歯切れが悪い。
(言いたい事があるなら言えばいいのに)
ムズ痒い陸遜をあしらうように手を振って、は胸を押さる。

(何だろ、この違和感…すごくモヤモヤする)



これ以上厄介な事が起こらなければいいけれど。