ドリーム小説
「それで近藤サン、見合いの方は…」
「それがさ…トシ、なんか、タフな所が気に入ったとか言われてさ…」
今回の見合い、成功させるべしと言われてはいたものの、内心では体よく向こうから断りが来ればいいと考えていた土方は押し黙ってタバコをくゆらせた。
近藤が背負って居る哀愁が半端じゃない。
どう声を掛けていいか分からず見ていると、そこを沖田が通り掛かって、近藤が呼び止めた。
「おい、総悟」
「なんですかィ、コブこしらえた近藤サン」
「よろづ屋からお前に伝言だ」
「よろづ屋? なんでィ。見合いに行ったんじゃないんですかィ」
「その店にちゃんが居てな」
「…………が?」
沖田の眉間に皺が寄ったのを、気付いているのかいないのか、近藤はあっけらかんと言葉を続けた。
「そうそう。ちゃんも見合いだったらしくてな。俺も驚いたの何の」
「…それで近藤さん、よろづ屋の旦那が見合い相手だったなんて笑えねェ冗談は止して下せェよ」
「いや、よろづ屋はかわらの補強で雇われてたみたいでなあ」
「そうですかィ。で、旦那は何て?」
「虫よけらしく見合いがどうなったのか聞いておけって」
せっかく出て来た事だし、ウィンドウショッピングを楽しんで、は団子屋の女将へと挨拶に行った。
わざわざその日に行くのもどうかなとは思ったけれど、団子屋の女将はの顔を見るなり、「大変だったらしいね、ちゃん」と駆けて来た。
どうやら見合い相手の男性もその足で出向いて、庭であった一部始終を話したらしい。
と言う事は、そのびっくり人間たちがの知人である事も伝わっているのだろうし、
やっぱりその気は無い事をやんわり伝えると、女将は寂しそうに笑って頷いた。
「お互い合う合わないって言うのは、やっぱり会ってみないと分からないものだからねぇ」
お、こりゃ向こうも断ったな
と過ったのは勘ぐり過ぎなのか、すんなり引いてくれたのを良しとするべきなのか。
お土産に団子三本貰って帰路へとつくと、すぐ屯所と言う所で沖田が立っていた。
丹精な顔をムッツリさせているのはあまり機嫌がよろしくない時だ。
触らぬ神に祟りなしと、会釈して通り過ぎようとしたに、
「で、見合いはどうだったんですかィ」
不機嫌そうな声が掛かって、は足を止めた。
「お断りしてきましたけど」
「……何で朝、言わなかったんでェ」
「何で言わなくちゃいけないんですか。一度でいいから食事してくれって頼まれただけですし」
「一度だけなら良いかって?」
「まあ。朝言わなかったのは、近藤局長の見合い話で辛気臭かったからですよ。そこでわたしも実は、なんてお笑い草でしょ?」
「…まったく笑えねぇって」
ぽつりと呟いた沖田は、瞬くにずいと右手を突き出した。
「団子」
「え、いやですよ。これは今日のお礼って貰ったタダ団子なんですから」
「毎度べろべろのアンタから財布を引っ張りだして、屯所まで連れて戻って来るのは誰だと思ってやがるんでさァ」
痛い所を突かれた。
「た、頼んでないですもん」
口ではそう言いつつも、はパックから一本団子を差し出す。
沖田が連れ戻ってくれるようになってからと言うもの、お金が浮いているのも事実。
仏頂面のまま団子を頬張った沖田は、で、と意地悪く歪んだ笑みを浮かべた。
「男の何が気に喰わなかったんでさァ」
「まだその話ですか?」
も一本頬張って、宙を仰ぎながら首を傾ぐ。
「最初からお断りするつもりだったんで、別に気に喰わなかったも何もないですけど…。あ」
「何でィ」
「いや、そう言う意味で言うと、気に入った所と気に喰わなかった所ははありましたよ。その人、なんでも柳生一門の方だそうで。刀の話しはとっても楽しかったんです。
でもまあほら、分からない振りをして聞かなくちゃいけないじゃないですか。そう言う所がまあ気に喰わなかったと言うか、辛かったと言うか」
言って、は落とすように呟いた。
「まあわたしみたいなのは、所帯に入るなんてのは縁遠いと思いますし…。今こうして真選組で刀や稽古を見れるだけでも結構幸せなんですよね」
「芋侍の刀ですかィ」
「シティボーイの刀も気になるっちゃあ気になりますけどね」
にやりと笑って、は歩き出した。
「お見合いより、手合せしてみたかったなぁ」
「なんでィ、色気のねェ女だ。なんなら、俺と手合せしますかィ?」
言うと、が首を巡らせた。
いつになく輝いた目で見つめられて、沖田は団子を食べる動きを止める。
そのまま数秒。ふっと息を吐くように笑ったは眉尻を下げると、少し寂しそうに笑った。
「止めておきます。沖田サン、なんか手合せくらいで済みそうじゃありませんもの」