ドリーム小説
「――なんて言って笑うんだよ、ヅラ。どんだけ可愛けりゃ気が済むんだ、あの女」
「知るか。…あ、そこのお兄さん、この店どうですか。可愛い子揃ってますよー」
プラカードを持った桂の傍らで、堂々と店の壁に背中を預けている銀時は、商売の邪魔になる事などサラサラ考えても居ないらしい。
そもそも客が居ないのも来ないのも事実なので、桂は所定の位置に戻ると、ちらりと銀時に視線を走らせた。
「そもそも、銀時。お前またの尻を追いかけ回しているのか。飽きないな、お前は。そんな事だから、雲隠れされるのだ」
「しょーがねーよ。飽きる要素がねぇんだもん。むしろ欲しいくらいだよ? 俺は。ケツの青い頃から好きだなんて、自分でもマジで引くわ。頼む、ヅラ。嫌いになれる要素をくれ」
「ヅラじゃない、桂だ。…と言えばこの間、街で会ったぞ」
「へぇ」
「実写版に出てないそうだな、と言ったら、岡田くんがするからって調子に乗るなよと頭突きをされた」
「手が早ェのなんて、今に始まった事じゃねぇだろ」
「わたしの役は石原さピ――にオファーしたけれど、スケジュールが詰まってるって断られたから、あえて出なかったのよ、とも言って居た」
「え? アイツ、自分を石原さピ――だと思ってんの? 惚れてる俺が言うのも何だけど、無理あるよね? 転がってる石とダイヤモンド位の差があるよね」
「…本当に、惚れているお前が言うのもナンな話だな」
桂が呆れた息を吐く。
銀時は頭の後ろで手を組むと、ぼんやりと宙を見上げた。
「顔じゃねェんだよ。惚れてる俺から見りゃ、そりゃ可愛くも見えるけれどよ。そう言うんじゃねェのは、オメーも良く知ってンだろ。ヅラ」
「……まあ確かに。あれほど危なっかしい女は見た事がないな」
「だろ。…ホント、目ぇ離せなくて困るんだよなァ。そう言う所なの。ダイヤモンドじゃ、俺が困るわ」
恐らく共に脳裏に浮かんでいるのは、先日のHOTEL IKEDAYAでの一件であろう。
桂は緩く頭を振ると、前を見たまま口を動かした。
「アイツは」
「ぁ?」
「アイツは、まだ自分の生きる意味を、仲間に見出しているのか」
「だろーな。爆弾持って走ろうとしたぐらいだからな。…真選組の連中が、仲間に入って無い事がまだ救いだよ」
「攘夷を掲げる俺達と、真選組。そうなれば、間に挟まれもがくのだろうな」
「ちゃっかり俺を仲間に入れンな。 ……ま、そん時はそうなるだろうな」
「銀時、お前は、アレがああして固執する理由、検討がついているのだろう?」
銀時は答えない。
是とも否とも言わないまま、桂を横眼で見た。
「オメーはどうなんだよ。ヅラ」
「おおよそ。松陽先生にでも頼まれたのだろう。
アレは先生に惚れていたからな。言われた事を守ってお目付け役をするうちに、それが自分の在り方だと錯覚したに違いない」
「だろーな。男は皆ロリコンだから先生とわたしもオールオッケーなのよ、って奴か」
「あの時のお前は、本気でショックを受けていたな。笑えた」
「いやいや。ヅラ、高杉の顔見たか? アイツの顔の方が笑えたよ」
どちらからともなく笑えて来て、てんで逆の方向を見ながら口を押える二人。
ひとしきり笑った桂は、再びプラカードを振る作業へと戻った。降って来る角を避けた銀時は、壁に頭をぶつける。
「高杉は知っているのか。アレが江戸に居る事を」
「しらねぇんじゃねぇの? 知ってたら、もう江戸は火の海だろ」
桂からプラカードを分捕った銀時は、負けず劣らず大振りにプラカードを振り回した。
狙い通り桂の頭に直撃して、満足そうにプラカードを放り出す。
「ったく、どいつもこいつも、どこに目ェついてんだか」
「…それはお前だ、銀時」
「それはオメーもだよ、ヅラ」
こぶを頭に拵えた男が二人、睨みあう。
ギリギリと歯ぎしりをした桂は、落ちたプラカードを勢いよく持ち上げて、地面に突き刺した。振り回すのは止めたらしい。
「見えねェ左目で、過去を見続ける高杉と」
「記憶を塗り替えてまで、前に進もうとする、か…会えば、一悶着起きるだろうな」
「アレが真選組に居るのは救いかもな。さすがに、高杉もあの中にゃ手が出せねぇだろうし。厄介な番犬も居るみたいだしよ」
「ほぅ。番犬がついているのか」
「近づきゃ噛むぞって顔に書いてあったぜ」
「それはそれは。是非とも高杉の喉元に食らいついて欲しい所だ」
「喉食いちぎられても、あの男は前に進むだろうけどな」
「全くお前らは面倒な女に惚れたと思いきや、面倒な男に惚れられるのがアイツの性質なのかも知れんな」
「同感だな。マジで俺が護るわ」
「だからそう言う所が鬱陶しがられるのだと言っている」
平然と頷く銀時に、桂は重くため息を吐いた。
「松陽先生が、今の俺達を見たら…どう思うのだろうな。銀時」
「つまんねェ事考えるな、ヅラ。別にどーもおもわねぇよ。あの時と同じ、笑ってンじゃねぇの」
「笑っている、か。なるほど。そうであって欲しい気もするな」
穏やかにそう言った桂。
その傍らで見上げた空は晴天で、眩しさに銀時は目を細めながら、零すように呟いた。
「アイツも、へらへら笑ってりゃぁ可愛いんだけどな」
「そのまま言ってみたらどうだ」
「言ったよ」
「そしたら何と?」
「タイムマシンでも探せば、だと」
「探したのか」
「探した」
「どこにあった?」
「自動販売機に顔突っ込んだ中」