ドリーム小説
「揃いも揃って、何で花見に弁当忘れて行くのやら…」
おばちゃん達が途方に暮れていた所に、たまたま通りかかった非番の。
最近の不運を呪って、浴びるように酒を呑んだせいで二日酔いのは丁重に辞退したのだが、
ただでさえ万年人手不足の男所帯を切り盛りする女中である。
猫の手所か二日酔いの女の手すら借りたいらしい。二日酔いの女なんて、猫より頼りにならないですよ、と言う戯言は聞き入れて貰えず。
結果、渋々了承せざる得なくなったは、毎年恒例の花見会場へと重い脚を動かしていた。
「だから嫌なのよ。飲んだ次の日、屯所で目が覚めるのは」
ぶつくさと言いながら、マヨネーズが入った袋を背負いなおす。
非番の前夜と言えば、かぶき町にある馴染みの屋台でへべれけになるまで呑んだだと、一人ふらふらとホテルに入って昼まで爆睡と言うのがお決まりのパターンであった。
幸いかぶき町はラブホテルと言う名のホテルに事欠かない。
突然行って泊まれるし、ベッドは大きいし、お風呂は広いし、化粧品は充実しているし、と文句の付けどころがなく、
は随分と気に入っていたのだが、ある時から何故か、不思議な事に屯所で目が覚めるようになった。
飲み屋の親父に聞いてみた所、が酔っぱらった後に来る「そうごくん」と言う男と、一緒に飲んでいるらしい。
そうして飲み潰れたの財布から、その「そうごくん」とやらが会計を済ませて連れて帰る流れを見るに、親父は「そうごくん」はの知り合いなのではないかと言うのだが。
身に覚えのない。
調べるうちに、その「そうごくん」が事もあろうことか一番隊隊長沖田総悟であると言う事が発覚。
加えて、どうやらご丁寧に総悟がを屯所まで連れ帰って部屋に押し込んでいた事も分かった。
驚いたが、通う飲み屋を変えた所、普段は素知らぬふりで過ごしていた沖田にやたらと絡まれるようになり、結局嫌がらせに根負けしたは元の屋台へと戻ったと言う経緯がある。
今朝も屯所で目が覚めた事だし、おそらく沖田と飲んだのだろう。
「…そもそも、忙しいだろうに良く毎度来るよな…」
ホテルに泊まって居たら、こんな面倒事に巻き込まれずに済んだのに。とは思っても言えない。
屯所に連れ戻されるおかげで、毎月のお金が浮いている事も確かなのだ。おかげでちょっといい酒飲めるし。
「まー、もうどうせ行くしかないんだ。ついでに花見で迎え酒でもするか」
コンビニでワンカップを仕入れたが公園につくと、人目をひく男所帯はすぐに見つかった。
だが、定位置に座っているのは見慣れた銀髪。
その姿を見るなり、は沈んだ声を上げた。
「…銀時……」
最近やたらと遭遇する気がする。
以前は同じ江戸に居ても、見かける事すら無かったと言うのに。
こりゃワンカップもここじゃ飲めそうにない。花より団子だから、別に構いやしないけれど。
行きたくないと言う足を引きずりながら、何とか土方の後ろに立ったは、「あのぅ」と声をあげた。
「あ? 。どうした、こんな所に。お前さん、今日非番じゃなかったか?」
「非番ですよ。だから居るんです。お弁当、忘れてます」
「弁当? 場所取りの時に、山崎が持って行くはずだったろ」
「なんか山崎さんから、みなさんが持って行くとおばちゃん達が聞いていたみたいですよ」
「山崎ィィイイイイ!」
「ぎゃぁああああ!」
地面に倒れていた山崎に殴りかかる土方。
あの様子じゃ、すでに殴られた後だな。
横眼で見たは、申し分ない程度に近藤に挨拶をすると、「では」と一歩後退さった。
何故殴られた風貌なのだろう。
「なんだ。せっかく来たんだ、ちゃん。一緒に飲んでいかないか」
「え!? 嫌々、いいです!」
「そーだぜ。そこの姉ちゃん、ンなむさくるしい連中と飲むより、俺と飲めよ」
全力で首を横に振るに、のんびりと銀時が声を掛ける。
キ、と銀時を横眼で睨んだは、その傍らに座る女が目に留まった。うっかり動揺する心臓を宥めて、平然と取り繕う。
「彼女いるじゃないですか」
「ちっげぇぇええよ! どこをどう見たら彼女に見える訳、お前!」
「銀ちゃん、汗すごいアルよ」
「返ってやましく見えますよ」
「バッカ野郎! 俺はなァ、かわいそうな卵を作る女にはこれっぽっちも…!」
言いかけた銀時の横面を、女は振り切った拳で全力に殴った。
弾け飛ぶ銀時に、目が丸くなる。
「…な…」
見た目しとやかな女性のグーパンが与えるインパクトは半端じゃない。驚いて呆けていると、近藤が「とにかーく!」と腕を組んだ。
よくよく見ると、ボロ布のようになっている銀時の面と、近藤の面の傷は同じである。この女性に殴られたあとらしい、とは理解した。しとやかな顔してとんだ凶器だ。
「こちらも毎年恒例の行事なんで、おいそれと変更できん。お妙さんだけ残して去って貰おうか」
「いや、お妙さんごと去って貰おうか」
「いや、お妙さんは駄目だってば」
つまりは、近藤が惚れたと言っていたのが、この妙と呼ばれた女性で、この女性を賭けて銀時は決闘をした訳である。
が黙り込んでいる間に、いつの間に横に来たのか、沖田は彼女の腕にかけられたコンビニ袋をひょぃと覗き込んだ。
「なんでェ。飲む気満々じゃねェかィ」
「こ、これは…! 弁当届けたあとにでも、ちょっと」
「昨日アレだけ呑んで、まだ足りないってンだ。身体おかしいですぜ」
「二日酔いですよ! 二日酔いらしく、迎え酒を…、と言うか沖田さん。屯所に連れて戻るの止めて頂けますか、おかげで朝からこんな弁当運びに…」
こそこそと話す二人の間を、山崎のミントンラケットが通り抜けた。
とは言え山崎はまだ地面に倒れたままだし、出所を追うと、反吐でも吐きそうな顔で銀時が立って居る。
「男が皆ロリコンなら、女は皆ショタコンですか、このヤロー」
「…まだそれ根に持ってるの…」
「まぁ、銀さんったら。女は皆ショタコンですよ」
「お妙さァァアアん! 俺はお妙さんより年下にはなれませんが、俺のナニはショタも同然で…!」
「聞きたくないわァアア!」
お重の蓋が宙を飛ぶ。近藤の顔面にめり込んだ蓋に、は心底同意を示して頷いた。
「勝手抜かしてンな。 幕臣だか何だかしらねェがなぁ。俺達をどかしてーなら、ブルドーザーでも持って来いよ」
「ハーゲンダッツ一ダース持って来いよ」
「フライドチキンの皮持って来いよ」
「フシュー!」
「案外お前ら簡単に動くな」
「…それから、そこの女は置いて行ってもらおうか」
「面白ェ。幕府に逆らうか?」
「今年は桜じゃなく、血の舞う花見になりそーだな」
「お妙さんは置いていって下さい」
なんとも面倒な所にでくわした。
これはもう、退散するに限る。
こっそりと忍び足で踏み出したの腕を、無表情の沖田が掴んだ。
「何ですか、沖田さん。もう勘弁して下さい」
「どこで呑むつもりか知りやせんが、アンタは自分の酒癖の悪さを自覚してねェんでさァ、大人しく屯所に戻ってくだせぇ」
「えぇー、だって、桜思ったより綺麗だし」
「花より酒の人間が何言ってやがんでェ。そもそも、酒飲みながら桜なんか見上げねぇくせに、どいつもこいつも花見だなんてぬかしやがる」
「桜の中で呑んでるって言うのが風情なんですよ。じゃあ、アンタはここに何に来てるんですか」
「酒飲みにでェ」
「まあ的確」
「とにかく、アンタが屯所に帰るつもりがねェって言うなら、こっちにも考えがありますぜ」
「…か、考え…って」
逃げ腰になる。
もうここは、嘘でもなんでもいいから、屯所に戻りますと言った方が早いに違いない。
そう思ったの眼に、ニヤリと邪悪に笑う沖田が映った。
「アンタの酒汚い考えなんて、お見通しでさァ」
「…」
「待ちなせェエエ!」
突然大声をあげた沖田に、驚く。
どこから取り出して来たか知れないヘルメットとピコピコハンマーを持ち上げた沖田は、悟った口調で首を横に振った。
「堅気のみなさんがまったりこいてる場でチャンバラたァ、いただけねーや。
ここはひとつ、花見らしく決着つけましょうや。
第一回、陣地争奪……叩いて かぶって ジャンケンポン大会ィィイイイイ!」
「花見かんけーねーじゃん!」
「えー、沖田さんの提案により、
勝敗は両陣営代表三人による勝負で決まります。
審判も公平を期して両陣営から新八くんと、ようやく復活した俺、山崎が務めさせて頂きます。
そして、見届け人はさん」
「…山崎くん、見届け人って何…? いる? それ…」
「良く分かんないんですけれど、沖田隊長が絶対そこに座らせとけと」
「ようするに逃げるなって事ね」
こうなりゃ酒も飲めない。やられたな、とは素知らぬ顔で座っている沖田に憎々しげな視線を向ける。
「勝った方はここで花見をする権利+お妙さんを得る訳です」
「何その勝手なルール! あんたら山賊!? それじゃ僕ら勝ってもプラマイゼロでしょーが!」
「じゃあ君らは+真選組ソーセージだ。屯所の冷蔵庫に入ってた」
「要するにただのソーセージじゃねぇか! いるか!!」
「ソーセージとそこの姉ちゃんだってよ、気張ってこーぜ。神楽」
「オウ。姉ちゃんが欲しいのは銀ちゃんだけだけどな」
「仕方ねェな。姉ちゃんくれるなら、俺のソーセージ、お前にやるよ」
「よっしゃァアアア! かかってくるネ!!」
「それでは一戦目、近藤局長VSお妙さん!」
そこからは何が何やら分からなかった。
じゃんけんに負けた近藤が、ヘルメットの上からピコピコハンマーで強打されてノックアウトと言う、ルールまるで関係ない事態に陥ったり、
沖田と、神楽と呼ばれた少女はヘルメット付けたままただの殴り合いになって、こちらもまるでルールを無視。
銀時と土方に至っては、酒飲み対決になって自慢話をした挙句に吐くし、
は頬杖をついたまま一連を眺めている内に、ふ、と息を吐いた。
なんだか妙に懐かしい。
こうしてわいわいと騒いでいるのを見るのなんて、もうずいぶんと前の事のように感じる。
実際、もう随分前なのだろう。
大切で、愛おしかった時間。
「……もう一度、手に入れたんだね。銀時」
真剣を引き抜く土方と銀時に、見守っていた面子がザッと後ろへ距離を取る。
その中ではその場を動く事なく、目元を緩めた。
「やっぱりそこの方が似合うよ。銀時にはね」
*+*+*+*
下ネタ注意と、個別に書くときりがなさそうなので、まとめて表に書く事にします。
悔いなど、無い。
胸を張れー!