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「ここは…?」

ひしめきあうように伸びる大樹が影を落としている。
「わたし、死んだんじゃ…」
(地下洞窟の外に押し出された、とか?)

まさかねぇ、
息を潜めて辺りを見回していると、飛び込んできた衝撃映像には目をひん剥いた。

「ら、――がいたんだ!」
「つまらない――を言うな!」

「おい――ル」
「さっさと――け!」


「ん゛ん゛っ!?」








状況を理解出来ないうちに牢へと突き飛ばされて、たくましいロニの胸に正面から抱き留められた。
初めての経験に悲しいかな、ときめきよりも動揺が勝ってしまう。ひぇっと口を突いて出そうになった悲鳴を飲み込んだ自分、偉いと褒めつつ、
「お嬢さん、お怪我は」
「あ、ありまへ…っ」

噛 ん だ。
褒めたのに、噛んだ。
羞恥に襲われていると、そんなを前にしてぴょこんと頭を下げたのは――カイル・デュナミス。

「ごめんなさい! オレが遺跡に居た女の子の話をしていたから、あの兵士たち、お姉さんをその子だと思っちゃって…!」
むっつり黙り込んでいたのを、怒っていると思われたらしい。
虚を突かれて、慌てては首を横にした。
「気にしないで、わたしが立ち入り禁止の場所に居たんだから」
「お姉さんはどうして遺跡に?」
「え」

澄んだ目に見つめられて、瞬きふたつ。
「それは、えっと」

(えーっと)

本来なら、ここに居るのはリオンのはず。と、言うことは。
(――リオンの代わり、なのかな?)


迫る濁流、モリュウの城で溺れた事などたわいもないほど、恐ろしく苦しかったことを思い出して身体が強張った。そりゃそうだ、ここに居るということは一度死んだということで――
「えっと」
ディスティニー2
この時代で巡る運命の輪に巻き取られていくことに、ふいに恐怖が首をもたげる。

「わた、しは…」

震えが止まらない指先に、ロニが怪訝な顔をした。
ここで怪しまれるのは得策ではない。
ゆっくり呼吸をして

心臓を宥めて

心のほんの隅っこで、リオンを守れて良かった、なんて思っている自分に向けて笑顔を繕った。



「わたし、レンズハンターなの」
リオンが運命の輪に戻されず、どこかで生きていてくれるのなら。
(出来る限り頑張って、みよう)
英雄と呼ばれるリオンを見る事が出来るかもしれないと思えば、これはご褒美なのかもしれない――なんて、

ほんのちっぽけな強がりと一緒に振り絞った笑顔。どう見たのか分からない、表情の読めないロニの奥で、カイルはわっと声を上げた。
「そうなの!? オレのかあさんもレンズハンターだったんだ! オレ、カイル・デュナミス!」
「ロニ・デュナミスです」
「わたしは」

ギュッと強く握られた手を見下ろしながら、ジューダスって名乗るべきなのかしらと過る。
(いやいや無理だろ! どの面下げても無理だ!)

「えっと、って言うの。よろしくね、カイル、ロニ」

ところでこの手を離すタイミングはいつがいいのか
どうしたものか考えていると


「――?」


頭上から降って来た声に、ぞわりと全身の毛が逆立った。
「ッ!?」
つい先ほどまで聞いていた声。
この声を、この美声を聞き間違えるはずなんてなくて、それなのに息が詰まって、弾けたように首を巡らせると、宙に浮いたモンスターの骨と目があった。

絹のような、艶やかな黒髪に瞳が奪われる。

「どうしてお前がここに」
静かな、ほんとうに静かなひとことに、心臓が痛いくらいに軋んだ。

「うそ」

こんな所に。
そんな恰好で。
(どうして……っ)

「リ…!」
「知り合い?」

我に返る。
開いたままの唇を閉じて、開いて、繰り返してようやく、掠れた声が紡げた。
「む、昔働いていた所で、面倒を見て貰っていた…ひとなの」
「この変な仮面の男が、ですか」
心臓がどきどきして、目がちかちかして、自分がどんな顔をしているか分からないまま。
上手い言葉を探していると、ふと、リオンは視線を下げた。
「…」
ふわりと地に足をつけたかと思うと、ロニの手を引きはがす。半ば強引に後ろへと追いやられて、何が何やら分からないよりも先にロニが吠えた。


「おい!」
「話はあとにするぞ。まずはここから出る」
「ここから出るって、方法があるの?」
「おい、待て待てカイル。どこの馬の骨とも分からない奴の言う事なんか信用出来るかよ」
「だって早くしないと、あの子どんどん遠くに行っちゃうよ!」
鼻先まで詰めるカイルに、詰められてたじろぐロニ。
何これ美味しい。
うっとり見ていると、骨の奥で光っている薄紫色の瞳と目があった。

その顔は、別れた時とひとつも変わらない。

(え?)

背筋が泡立った。

(なん、で)

「……好きにしろ」
(嘘って言って)
「ありがとう、ロニ! オレ、カイル! 君は?」
「名前などぼくにとっては無意味だ。お前たちの好きに呼ぶといい」
「ええっと、じゃあ」

カイルはリオンを知っている素振りもない。

「ジューダス! どう? 恰好よくない?」
「好きにしろ」

ジューダス。裏切り者。 つまりそれは

「お前たちは勝手についてこい」
さん?」

「わたし、貴方を…」

貴方を守れなかったと――言うことなのか。