ドリーム小説

 ――もう忘れたくない。ダリスの事も、この旅も。
 ――わた、しもです。マリーさん。


「それではさん、また」
「はい、フィリアさん! また!」

「さよならは性に合わないから、こっそり行くわ。じゃあね、
「わお、何ですかその特別感! ……すごく嬉しいです。また」

「あーあ、誰も旅しないのかあ」
「出来たら楽しいでしょうけれどねー」
「そう思うよな!」
「もちろん。とっても楽しかったです! …ありがとうございます、スタン」
「俺こそありがとう!」

(さよなら、マリーさん)

 ――それから。お前さんのやるべき事が終わったら、アクアヴェイルに来ないか?
(ジョニーさん、さようなら)



「行くぞ。まずは屋敷に戻る」
「はい」




きっとたくさんの人が願った、貴方の幸せ。
はじめは、気にくわない奴だと思った。

数多大勢の中の一人であるわたしだけれど。
それが貴方にとって大きなお世話だろうと分かってはいても、願わずにはいられなかったのです。
僕を頼れと言ったのに、先に行けと言ったアイツが気にくわなくて、

どうか。
僕は。
どうか。
ぼくは、あの時、


貴方こそ。



  ――リオンは、好きな人とかいるのか?
浮かんだ人間が二人いた事に、気付かぬ振りをした。




「嘘だと言ってくれ、リオン…!」
、冗談でしょ!?」

晶術を唱える。
ファイアボールはルーティのスナイプエアに相殺され、雨のように降って来る弓矢が横腹を射抜いた。
「…ッ、ヒール!」
リオンを回復していると、隙を突いてマリーが突撃して来る。交わる視線に、斧を振り上げる彼女の顔がこれ以上ないほどに歪んで、

「ファイアウォール!」

(迷うな)

何度も、何度も。
心に決めた事を繰り返す。
(もう少し、あと少し、それまでわたしは、止まれない)



炎の壁が薙ぎ払われた。
振り上げられた斧が映る。
咄嗟に仰け反ったけれど、腹部を電流のような痛みが駆け抜けて、
(しま…っ)
視界がぶれる。力が抜ける。
(ここで、意識が飛ぶ訳には…!)
「いかない…んだァアアアア!!」
「マリー、あぶな…!」
「リオン、止めろ!!」
渾身の力を振り絞った体当たりに退いたマリー、彼女が立って居た場所にシャルティエが振り下ろされて、の瞳に桃色のマントが揺れはためいた。


(嗚呼)

「平気か?」
「リオンこそ」
ボロボロだというのに、男らしく血を拭う姿はなぜか美しい。

「どうしてだよ、リオン…! どうしてなんだよ、さん! 俺達友達だろ!?」



「…
「はい」
「まだ戦えるか?」
「もちろん」
頷いたのに、リオンはウンともスンとも言わない。
綺麗な紫色の瞳と目が合って、何も言わないまま。

「リオン?」


リオンは――シャルティエを地面に突き刺した。


「……スタンたちと行け」
「は?」
「僕はここに残る」

「ちょ」


まだ戦えると言ったはず。
その台詞を先に言うのは、のはず。
突っかかったまま出て来ない言葉に、唸るような地鳴りが聞こえた。


「リオン」
わたしは足手まといですか。

(ちがう)
画面越しでも不器用だった人。
実際に会ったらもっともっと不器用だったこの少年は、言葉の裏にたくさんの思いを秘めたまま、背負ったまま、父に歯向かい、仲間と対峙した。

その背にを従えてくれた。


「リオン」
どうしようもなく笑えてしまって、息を吸う。
「マリアンさんを助けて下さいね」


ひとつ言葉にするとあとは容易かった。
ずっと温め続けて来たこと。
伝える事は出来なかったはずのこと。

(どうか)
どうか貴方に、

『裏切り者』と呼ばれぬ未来を。

(誰が何と言おうと)
(貴方が何を選ぼうと)

「貴方はわたしの、誰より強く、優しい英雄です。リオン」


詠唱なしに撃ったスナイプエアに、貫かれたリオンは目を見張った。
「な、にを」
「ここは崩れます、みなさんリフトに乗って下さい! スタン、ルーティさん! リオンは大切な人を人質に取られています」
「!?」
「わたしたち二人じゃ助け出せなかったけれど、どうかリオンを連れて行って下さい」
「でもは!?」
「わたしはリフトを動かします。さ、早く!」
「離せスタン、このリフトは…!」
もがくリオンに涙が滲む。
通り過ぎて行く皆の背中がぼやけて見えなくなって、ああやっぱりあの時見ておいて良かったなあ、なんて思いながら、


、早く…!」
上げたレバーで、リフトが動き出した。


「スタンたちと一緒ならヒューゴにも勝てます。マリアンさんも助けられます。……スタン、ルーティさん、フィリアさん、マリーさん」
上へ上へと昇って行くのに、それでも追いすがってくれる。その姿がたまらなく苦しくて、
「ありがと」
こんな簡単な言葉が声にならない自分が情けなくて、




「ありがと、ございました」


濁流が近づく音が心臓を揺らす。


「ありがとう、神様見習い。リオンの傍に居られてよかった」
「自己満足でも、味方になれて良かった」
「このためにわたしはここに来たんだ。だいじょう――」

(さようなら、大好きなこの世界)

身体が打たれた。波にのまれて、意識が薄れて、消えゆく意識の中



『本当にお前は、馬鹿だったんだな』


呆れているような、笑っているような
穏やかなリオンの声がどこかで聞こえた気がした。