ドリーム小説

ジョニーの一閃がティベリウスを薙ぐ。
崩れ落ちるティベリウスを映すジョニーの瞳が暗く翳って、彼は唇を噛むと、瞳を伏せた。
「…エレノア」
ようやく。
震える声で続けて、唇に弧を描く。
「ようやく、眠れるな」





「ジョニーさん、お世話になりました!」
「それを言うならこっちもこそだ。フェイトを助けてくれて、ありがとな」
握手を交わすスタンとジョニー。
その傍らで、は黒十字艦隊を見上げていた。

いよいよだ。いよいよ、ファンダリアへと向かう。に残された時間は少ない。
無意識にリオンへと伸びようとした視線は、その途中でを見ていたジョニーと絡んだ。ふ、と彼は笑うと、スタンへ目を戻す。

「最後くらい、年長者らしい事を言わせてくれ。目的に向かって行くのも大事だが…たまには寄り道も良いもんだぜ。止まって、初めて見えるものもある」
「寄り道ばかりしているお前が言うと説得力があるな」
ひょいと肩を竦めたフェイトの脇をジョニー小突いて。
「おいおいフェイト、水を注すなよ」
「はい! 覚えておきます」
「それから。お前さんのやるべき事が終わったら、アクアヴェイルに来ないか?」
「え?」
は二度程瞬いた。
やるべきことが終わったら。
胸の内で反芻して、どういう顔をしていいか分からないまま笑みを繕う。

「そう、ですね。その時はジョニーさんが立て直していたアクアヴェイルを観光させて貰います」
「おっと、観光と来たか。そう言う話でもないんだが…まあいいか。楽しみはとっておくのも一興だしな」
大きな手のひらが頭の上を跳ねる。
すれ違いざま、小さな声でジョニーは呟いた。


「生きろよ」



咄嗟にはいと嘯く事が出来ない。
まるで自分を見ているようだと言うくらいだから、上面の返事なんて求められてもいないのだろう。
「ありがとう、ございます」
悩んだ挙句、ようやくその一言を紡いで、はジョニーに大手を振った。

「さようなら、ジョニーさん!」
「おう、またな!」









騒然としている港町、スノーフリアを出て西の森へと向かうと、は雪での戦闘に苦戦を強いられる事になった。
「うわ、ぎゃ!」
両手を動かしてバランスを取ろうとするも、そのまま顔面ダイブする。
埋もれた顔を持ち上げる頃には戦闘も終わっていて、何度目か分からない痴態にため息が出た。
「大丈夫か? 
「マリーさん、何でそんなに軽快に動けるんですか?」
「わたしか? ……何故だろう」
呆けて宙を見上げるマリー。
ファンダリアに降る雪を見てからと言うもの、マリーはぼうとしている事が多くなった。
ルーティは心配に気を揉んで仕方がないようだが、はそれが記憶の戻る前兆だと言う事を知っている。
寂しいような、苦しいような気持ちに捕らわれないよう、は努めて明るい声を上げた。
「こう、足が沈む前にですね。次の足を出せばいいような気がするんです、が、うわっわ」
後ろに傾いた身体が止まる。
「……何を遊んでるんだ」
「すいません」
「前線は僕とスタンで十分だ。後ろで晶術でも唱えていろ」
「はぃ」
情けない。
苦笑を零すと、リオンはキュッと眉間に皺を寄せた。

「目の前で転ばれたら気が散るんだ」
『…だから坊ちゃん、フォローになってませんって』
ぽつりと呟くシャルティエ。

リオンが戦闘指導モードに入ると、次から次に吐き出される悪態と皮肉に噴出した怒りがモンスターへ向けて発散される為、メンバーの戦闘能力が格段に上がる。
としてはリオンの不器用さだと言う事を知っているので気にも留めていなかったのだが、言い方が拙かったと思っていたことが驚きだ。

「大丈夫です。分かってます」

それにしても、寒い。
擦り合わせる指先にはもう感覚がなくて、は黒十字軍の人からお裾分けして貰った酒瓶をジャケットの上からなぞった。
(お酒飲んだら、芯からあったまるだろうになあ)
そう言う訳にもいかないか。
足元だけを見て歩いていると、スタンの声が響いた。

「チェルシー!」

反乱軍兵士との戦闘が始まったらしい。
後ろで晶術を唱える所かえっちらおっちら追いかける方が精一杯で、ようやく追いついたと思ったらすでに戦闘は終わっていた。役立たずにも程がある。
「大丈夫か、チェルシー!」
「ちょっと見せて。怪我は大した事ないけれど、酷く衰弱しているわ」
ウッドロウの腕の中でぐったりしているチェルシーは酷く顔色が悪い。
スタンはその小さな身体を抱えると、ウッドロウを促した。
「スノーフリアの宿屋に戻りましょう。チェルシーは俺が」
「ああ、助かる」
足早にみなが元来た道を戻って行く。
とすれ違って戻るスタンやルーティの横顔を眺めて、首を巡らせた。その背を眺める。

「どうしました? さん」
「え、あ、いや、その…えっと、いえ、何でもないんです」

フィリア、マリー、ウッドロウ。

真っ直ぐと伸びた背。靡く髪。
見惚れていると、行くぞ、と声が掛かった。
「はい」
リオンが過ぎていく。


ここにカメラがあったなら。
この並んだ背を映して起きたかったなあ、なんて思って、は親指と人差し指でフレームを作った。
枠の中に入れて、眩しそうに目を細める。

わたしは、この光景を。

「…一生、覚えていたいな」