ドリーム小説
「ジョニーさんのリュートってすごいな」
「まあな。歌って戦えるんだぜぇええええ」
じゃらーんとジョニーのリュートが鳴って、スタンが一緒に歌いだす。
リュートを弾き鳴らすジョニーに、気持ちよく歌うスタン。
いつまでたっても機嫌が悪いリオンを遠巻きに見ているは必然的にこの二人と歩く事になってしまって、
手拍子をしていると、スタンはミュージカル俳優張りに広げていた両手を下した。
「も一緒に歌おう」
「え、わたしですか!? いやいやこれ以上坊ちゃんの機嫌を損ねるのは怖…んんっ、ではなくて、スタンとジョニーさんの歌を聴いているだけでとても楽しいですよ」
「ちょ、無責任な事言わないでくれる!?」
後ろから小突かれて、は首を巡らせた。
「やっぱ駄目でした?」
「あたり前でしょ。こっちは戦闘続きで辟易してるんだから…ここから別行動って訳にはいかないのかしら」
さっきから異様にエンカウント率が高いのは、間違いなくこの二人が歌っているせいだ。
いつもなら真っ先に雷を落とすリオンはむっつりと押し黙ったまま。
ルーティは呆れた顔をすると、の腕を手繰り寄せて、顔を寄せて来た。
「もーアンタ、ちゃっちゃと謝っちゃいなさい」
「えぇえ、謝って機嫌がなおるなら、とっくの昔になおってるんじゃあ」
「土下座って言うのはどう?」
「ちょ、ルーティさん、自分がしないからって止めて下さいよ!」
「なんか張り合いなくて調子が崩れるのよねぇ。………なによ、その顔」
にやにやが止まらない。
意地っ張りな所も素直じゃない所もそっくりだと言えるものなら言いたかった。
言えないぶん、は笑う。
「ルーティさんとリオンが仲がいいと嬉しいもので」
「どこが仲良く見えるのよ」
「仲よくしてくれると嬉しいなぁって話ですよ」
だから、と言いかけたは口を閉じた。
銅像の陰で何かが動いているような気がして、焦点を絞る。
「?」
「やば」
限界まで引き延ばされた弦。
ひゅっと弓が放たれて、は踵を返した。
「ジョニーさん、危ない!」
「ん? ――おい!」
咄嗟に乗り出した肩に鈍痛が走る。
「――ッ」
身体が宙に浮いた。
目の前には、バルブを捻って抽出した水がある。
身体をぶつけない事にホッとしたのもつかの間、どぶんと身体が水の中に沈んだ。
青い世界に、たゆたう両手。
動かそうとした指先にピリッと痛みが走って、は息を呑んだ。
(これ、麻痺…っ)
ごぼっと口から泡が出て行く。
息を止めようにも唇一つまともに動かない。
(こんな所で死ねないのに…っ!)
指先ひとつ動かせない。
酸素が出ていく。
の心臓が恐怖に凍りついたとき、腰に何かが巻き付いた。力任せに引っ張りあげられる。
「っ、ぁ」
「、今リカバーかけるから!」
リカバーで、全身の硬直が解ける。
「ゴホッ」
「だいじょうぶか?!」
「水を飲んでませんか、さん!」
「ちょ、リオ――ッ」
俯いていた胸倉をつかまれて、霞む瞳にリオンが映った。全身ずぶ濡れだ。水を滴らせたリオンは憤怒の瞳でを見下ろすと、揺さぶった。呼吸が詰まる。
「お前は…!」
「っ」
「お前は僕の部下だろう! 大人しく僕を護ってろ!」
「あ、あの」
「分かったか!?」
詰め寄られて、は頷いた。
二度三度と頷いてようやくリオンの手が離れる。
呼吸が楽になって咳を繰り返していると、リオンのつま先が床を叩くのが見える。
「ノイシュタットにしてもモリュウにしてもそうだ。どうして僕がお前を探して、気にしなきゃいけない」
リオンの足元には水たまり。
視線を持ち上げると、濡れた前髪をかきあげたリオンは不愉快そうに吐き捨てた。
「だいたい僕は、お前に護られる程弱くないんだ」
白い頬が僅かに朱に染まる。
「だから少しは僕を頼れ!」
呆けていたは睨まれて、おっかなびっくり「はい」と返事を返した。
すると坊ちゃんはフンと鼻を鳴らして踵を返す。
寸前まで怒り狂っていたのが嘘みたいだ。
すっきりしているリオンの横顔を見ている胸の内を、ルーティが代弁する。
「素直じゃないわね」
「素直じゃないな」
「可愛い所もあるじゃないか」
うんうんと頷くスタン。
この期に及んで可愛いなんて言葉を選べる辺りがさすがスタンだ。
呆気に取られたままのに差し伸べられる大きな手。
見上げると、にんまり笑っているジョニーと目があった。
「良かったな。お前さん、一人で背負いこまなくて良さそうだぜ」
「ジョニー! スタン! だいたいお前たちが能天気に歌なんて歌ってるから恰好の的になったんだぞ!」
「お、アンコールか?」
「誰がいつそんな話をした!」
ギャンとリオンが吠える。
とルーティは顔を見合わせると、揃って吹きだした。
「やっぱ、こうでなくちゃね」
「ですね」