ドリーム小説

どこからか聞こえる金切るような悲鳴。モンスターの唸り声。
石化させられた人に、負傷して蹲っている人もいる。
モンスターなのか人なのか分からない死臭が土埃に混じって街を包んでいた。

「酷い」

震えるフィリアの声を聞きながら、は唇を噛む。
酷い。その言葉がぐるぐると。
目の前の光景がぐるぐると。
回って回って――。

「大変! 闘技場のモンスターがっ」
踵を返して闘技場へと戻ったは、面々が剣を抜くよりいち早く駆け出した。

「ッ」
!?」

モンスターの角を剣で防ぐ。
腕の力だけでは到底足りず、両手に加えて片足を剣の柄に沿えた。一本だけの足がズルズルと後退していく。
腹に力を入れれば、耐え切れる気がした。
誰に対する怒りでもない、自分に対する怒りで震える身体を押さえつけて、は呻く。
(あれは、わたしが救わなかった街だ。だから、泣くなんて、甘えてる…っ)

目頭が熱い。
今にも泣き叫びたいのに、脳は嫌に冷静に算段を立てる。
モンスターの息遣い。気配。四肢がどう動くか。以前とまるで違う自分に尚のこと腹が立って行く。
「うぁ」
落とした言葉が堰を切った。
ぼろりと涙が零れて、は叫ぶ。


「うあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」



喉が焼け付いた。
は軸にしていた足でモンスターの眼を蹴ると、剣を構える。
「閃空翔裂破ッ!!」
斬り込まれたモンスターが地に沈み、着地したは両手で顔を覆った。喘ぎながら呼吸をして、止まらない涙に太ももを殴る。

(何がイレーヌが苦手だ。わたしだって同じだ。わたしの都合で、助けられる人と、助けられない人を選んでッ)

に睨まれ、びくりと身体を震わせるイレーヌと少女。言い様のない怒りが腹の底から湧きあがり、は奥歯を噛みしめた。

酷い。
フィリアの言葉が脳裏を過る。

「……ほんと」
これからも選び続けなくちゃならないのだ。
吐きそうに後悔しながら、は勝手に助けたい人の為に走り続けなくてはならない。
「ほんと、ひどい」
ぽつりと呟いて、は走り出した。


「ちょ、…!? どうしたの!?」



闘技場を出て、は我武者羅に剣を振るう。
攻撃を食らおうと腕を振り上げた。声がかれるまで呪文を唱えた。
どっちの血か分からないものが剣と自分を汚して、拭って、剣を構えた腕を掴まれる。
「魔人剣ッ!」
すっかり聞きなれた声と共に風が薙いで、モンスターが崩れ落ちた。
腕を取られたはそのまま前のめりになると、地面に膝をつく。
「ごめ、なさい」
石化した人。ボロ雑巾のようになって倒れている人。泣いている子ども。誰に謝っているのか、誰に謝っていいのか分からないまま、は喘いだ。
「それでもあたしは――ッ」


選び続けなくちゃいけない。
こんな状況を前にしても、選び続けなくちゃいけない。

「あたしは酷…!」

頬が掴まれる。
我に返った瞳に映るのはリオンで、眉間に皺を寄せたリオンを見るなりは糸が切れたように情けない声をあげた。
「リオ」
「迷うな」
「っ」
「僕たちはこんな所で止まれない。僕たちはこんな所で死ねない。グレバムを止める。そうだな?」
「…そう、です。あたしは…止まれない」
グレバムなんてどうでもいい。
けれど。
この人の
リオンの力になるまでは止まれない。


何度も迷って、選ぶのだろう。その度に後悔するだろう。
そしてその度にリオンを見て――この道を選び続けようと思うのだろう。



「だい、じょうぶです」

最後の一滴と決めた涙が落ちると、は袖で目元をぬぐった。
「あたしは止まらない」


するとリオンは僅かに目を開いた。丹精な眉間に皺を寄せると、唇を動かす。
何かを言いたそうにした唇を一度閉じて、リオンは至極不機嫌そうな声を上げた。
「…だったらあまりフラフラするな。僕の気が散る」
『素直に心配だって言えばいいのにねー』
「うるさいぞ、シャル。…さっさと立て、残りを片付ける」
「…はい!」