ドリーム小説

連日連夜の寝不足がここに来て襲い掛かって来た。
に続いてリオンが合流し、客室に入るなり目も開けて居られないほどの睡魔が襲いかかって来る。
「ぅう…」
「どうした? 
「マリーさん、わたしもうダメ…です」
さん!?」
スタンの声が遠くなる。
スライディングする勢いで前のめりに倒れたは寸ともせぬ間に寝息を立て始めた。
「すかー」
そんなを囲んで、フィリアはぽつりと呟く。
「……もしかして…寝ていらっしゃるのでは…?」

「むにゃ」
「しかも恐ろしい速さで熟睡してるし…」

『まあまあ』
呆気に取られる面々の他所に、アトワイトはやんわりと声を掛けた。
『ようやく糸が切れたんですもの。しばらく寝かせておいてあげましょう』








「…いくら寝るって言ったって、チェリクまで爆睡するとは思わなかったわよ…」
「………申し訳ない…」

目の前には、灼熱の大地。
もわっと蒸すような気温の中、生ぬるい風を頬に浴びながらは陳謝した。
クレメンテが眠る海域に付き、大波を起こして海竜が現れようとはさっぱり起きる気配を見せなかった。
ルーティーやスタンが手を尽くしたが微動だにしない。
結局を船に残して行くしか術がなく、起きてからは沈没船で起こった話を聞く事となった。

「アンタだってソーディアンの声が聞こえるんだからマスターになる資格はあるって事でしょ?
一緒に行ってたら、もしかしたらクレメンテのマスターになってたのはアンタだったかもしれないのに」
「ええー」
それはないですよと言うより先にフィリアが声を上げる。

「すみません、さん」

「ええ!? なんでフィリアさんが謝るんですか!?
嫌々、ホントに全然気にしないでください。私はほら、もうすでに武器は持ってますし…。

例え私が一緒に行ってたとしても、間違いなくクレメンテのマスターはフィリアさんでしたから!」

まったくもって問題なしです!と言うと、クレメンテ老ののんびりとした声が間に入った。

『まあ、儂としてはどちらも捨てがたかったんじゃがのぅ…』
『………老…』
至極残念な事を聞いたようなディムロスの声が聞こえる。

「その言葉だけで十分です、クレメンテ老」

フィリアとで迷ってくれるなんて、なんてお優しい。
が口に出せない喜びを噛みしめている横で、それにしてもとルーティは首を傾げた。
の武器って…ソーディアンに似てるわよね」
「あ! 俺もそれは思った。なんていうか、フォルムと言うか…」
「真ん中に石があるのも一緒だな」
「クリスタルに見えなくもありませんしね」

まじまじと四人から見られるので、釣られても自分の剣に目を落とした。
確かにこの剣を選んだ理由も、ソーディアンに似ているからに他ならない。
つらつらと思い返していると、
『そんな訳がなかろう。我らの知らぬソーディアンなど考えられん』
ぴしゃりと言ったディムロスに、スタンは不服そうに口先を尖らせた。
「それはそうかも知れないけれど…。誰も知らないソーディアンなんてカッコいいじゃないか。もう少し夢見させてくれてもいいだろう」
『しかしまあ、? じゃったかの?』

「はい」

『その剣を持ってこの方、手入れをした事はあるかの? 切れ味が悪くなったと感じた事はあるかね?』
「いいえ、全然…研いでもいませんが、未だに感じた事はないです…」

『ふむ…。まあもしやしたら…ソーディアンではなくとも、我らと同じ時代に作られた剣…やもしれんの』


とはいえ考えても答えのでる話題でもなくて。
はしばらく眺めていた剣を腰に戻すと、少し離れた所で我関せずに立っているリオンを仰ぎ見た。

「ところで…リオンさま、なんか機嫌悪くないですか?」

ただ船酔いしているだけかも知れないけれど。
そうは言えずに飲み込んだが、なんとなく身に纏っている空気感がいつにもまして刺々しいように感じる。

言うなれば、
とリオンが初めて顔を合わせた時のような…。

「そう? いつもあんな感じじゃない?」
あっさりと言うルーティに、はそれもそうかと合点した。が。
「それかまあ――寝こけてた事に怒ってるかのどっちがじゃない?」
付け加えられたルーティの言葉にゲッと潰れたような声を上げる。


どうしよう、クビなんて言われちゃったら。
着いて行ける所までついて行きます、なんて大口叩いた初っ端、見捨てられたら情けないにも程がある。

はダッシュでリオンの傍へ行くと、腰を九十度に曲げた。
「リオンさま、大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!!」

状況が状況なら土下座も辞さない覚悟だ。
だが待っている相手からの言葉はまったく聞こえてこなくて、しばらくしたのちは恐る恐ると顔を上げた。

「? リオンさま?」

そこには――何とも言えない顔をしているリオンが居た。
口を開かないリオンは、苦虫を噛んだような顔でを見下ろしている。

怒っているのとはまた違う顔。
どう対処していいか分からず首を傾げたはおっかなびっくり声を絞り出した。

「あの……何か?」
「………………別に」

ぷいとそっぽを向かれて、
は「ええー」と内心で呟く。どうしろというのか。

とりあえずは怒っている訳でもなさそうだし…このままにしておく方が賢明か。
触らぬリオンに怒りなし、この数日で覚えた言葉の一つである。

脱兎のごとくルーティ達の方へ戻っていく
その足音を聞いていたリオンに、シャルティエは心配そうに呟いた。
『坊ちゃん…』