ドリーム小説

「火の番、わたしがしますよ」
「……そう言ってアンタ、昨日も寝てないんじゃない?」

ルーティに言われて、
は苦笑しながら後ろ頭をかいた。

ストレイライズ神殿へと向かう途中の森で一夜を明かす事になったパーティの面々は、たき火を囲んで休んでいる。

傍から見るに、リオンの電撃攻撃に対する心労が一番大きい気がするが、
皆ダリルシェイドからここまでの道のりに疲れ切って辟易していた。

スタンにいたっては火の番を誰がするか以前に早々と寝息を立てはじめ、
マリーも火の傍でうつらうつらと船を漕いでいる。
相変わらずマイペースなリオンは少し離れた所で目を伏せていた。

そんなパーティメンバーをぐるりと一巡するように視線を巡らせて、
心配なのか、不安なのか、疑うような横眼を向けて来るルーティに、は「大丈夫ですよ」と笑う。

「あんまり眠たくないんです。だから、大丈夫です」
「……なら、遠慮なくあたしも休ませてもらうわ」

「おやすみなさい」
寝息の大きいスタンから距離を取って、ルーティはアトワイトを抱えたまま目を伏せた。
ちょっとしたら、すぐに寝息が聞こえ始める。

モンスターも元は動物。
夜は活動しない生き物の方が多いらしい事も知ったし、
どちらかと言うとたき火を絶やさない事の方が重要任務のは、集めた木の枝を一本取って火の中に投げ入れた。パチンと弾ける音が響く。

はたき火に手を当てたまま、静かになった夜にほぅ、と息を吐いた。
正直な話、眠たくない、と言うより眠れないのだ。
寝れるものなら寝たいけれど、必要以上に高ぶった神経が必要以上に思考を張り巡らせる。


は包帯の撒かれた腕をぎゅ、と握ると、小さく息を吐いた。

どんなに腕が立つ設定でも、所詮は設定。
リオンは当然の事ながら、スタンやルーティ、マリーにさえ、は背伸びしたって経験値で適わない。

モンスターの血を思わず避けて体勢を崩してしまったりとか、
ひょんな事でリオンも自分も戦闘不能になりかけた時、最前列に居る自分より、
後列で晶術を唱えていたリオンを優先して回復してしまったりとか。

立ち回りとして反省点しか浮かばない。

こうして毎夜一人になるたび反省会を開いてはみるものの、いざ戦闘になると、結局思ったようには動けなくて、ヤキモキは繰り返されるばかり。
結局、眠れなくなる。


「…はあ…」
思わず重たいため息をついた時、

『どういう訳か、随分戦闘に慣れていないようだな』

と、ディムロスの声が頭で響いた。


が視線を向けると、野宿とは思えない程熟睡しているスタンの脇にあるディムロスが、キラリと光った気がする。

『腕は立つのに、不思議ね』
追う様に聞こえたアトワイトの声に、は渇いた笑いを浮かべた。

「…面目ないです」
『――血が怖いのか?』

ディムロスに訊かれて、は何とも応えようがない。
『あら、怖くない訳がないじゃない。慣れるものじゃないわよ』
ううん、と唸っていると、アトワイトが優しく口を挟んでくれて、思わず自嘲した。

「ついその――、反射的に身体が動いてしまって…」

包帯の傷は、思わず体勢を崩した時に、モンスターに付けられたもの。
治癒してもらう事も出来たが、
なんとなく自分への戒めとしてそのまま残しておく事にしたそれを指で辿って、は憂鬱な息を吐いた。


『そのうち戦闘に慣れれば、いい意味でも悪い意味でも、軽く避けられるようになるわ』
「そんなものですかね?」
『そんなものよ』

アトワイトに言われると、本当にそんな気になって来る。
が少し笑うと、離れた所からシャルティエの声が横入って来た。


『そうそう。頭で考え込んだって、身体はそんなに上手に動くものじゃないよ』

どこまでも能天気な声音のシャルティエ。
彼が喋るとリオンが起きそうでハラハラしするの気なんて知りもしないのかと思いきや、

『大丈夫だよ。坊ちゃんは起きないから』
と、さらりと言ってのけるから、大物だ。
そんなに大きく出て、リオンが起きたらたき火にくべてやるとは思いながら、たき火に向き直ると、パチパチと弾ける火花を瞳に映す。

「……足手まといには、なりたくないです」

ぽつり、言うと、次から次に零れ出て来た。

「でも…ちょっとだけ、怖いです。後、疲れました。
戦闘って…思って居たよりずっとハードで
…モンスターが倒れるのを見るたび、身体の芯が冷たくなるような感じがして…。

でも、頑張らないと。
これから先、もっともっと頑張らないと、追い付けなくなる」


リオンに、と、
出掛った言葉の先は言えなかったけれど、言葉にすると、少し身体が軽くなった気がしては笑った。


「足手まといにだけは絶対になりたくない…。
なれないんです。

ですからみなさん、よかったら色々と教えて下さい」

『ええ、もちろん』
『仕方がない』

二人の言葉に安堵するのもつかの間、
『ねぇ、

ふいにシャルティエに呼ばれて、は首を巡らせた。
そこに人としての姿がある訳ではないけれど、
の脳裏には、ふと、画面越しに見た美少年の姿が見えた気がする。


『戦闘に慣れてない時ってさ、冷静になれないから、性格とか、思ってる事とかが良く出るよね』
「…そうなんですか?」

『うん。だから、ありがとう』



何について御礼を言われたのかさっぱり分からないがきょとんとしていると、
シャルティエはあっけらかんと笑った。

『なんでもないよ』