ドリーム小説

「で、なんでアンタがまだいる訳?」
「いやはや。リオン様の部下として雇って頂ける事になりまして…」

ルーティの不信感たっぷりな視線に、は笑顔を返してみたが、まあ胡散臭いだろうなと自分でも思った。
意識が戻ったら、見覚えのない女が仲間として一緒に閉じ込められているのだから、驚くし、怪しむに決まっている。

「旅は人数が多い方が楽しいじゃないか! なあ、スタン!」
「そうですね、マリーさん!」

ましてや人を疑う事を知らないこの二人が一緒なのだ。人一倍神経も使うと言うもの…。
怪しまれている立場で思うのもなんな話だが、ルーティがかわいそうに思えて、
はもう何回をも使った方便を手短に話した。

「へぇ…仕事を探してて、窓から…ねぇ…」

しかし、そんな方便で騙されてくれるルーティじゃない。
こちらとしても想像し得る範囲内で、 はルーティにだけ聞こえるよう、そっと耳打ちした。

「…と、言うのは建前で。
お金が必要なものですから、オベロン社で雇ってもらいたかったんです。

その為に、ちょこっとだけ利用させて頂きました。すみません」

「……まあ、そんな所だと思ったわ」
相槌打ったルーティが、二の句を継ぐ前には言う。
「御礼金は無しの方向で」
「ちぇ」

契約金を前払いで寄こしなさい、とヒューゴに突っかかっていたのを見たは十数分前の事。
が苦笑いを零していると、艶やか声が頭の中に響いて来た。

『ごめんなさいね』
「い、いえ。そんな。滅相もありません!」
誰にと言えばアトワイトに対して答えているのだが、
突然両手と首をブンブンと横に振りだしたは、傍から見ると随分滑稽だと思う。

なるほどソーディアンマスターにはメンタルの強さが必要とされる訳だな、とスタンを見ると、 突然視線を向けられた彼は当然理由が伝わるはずもなく、きょとんと瞬いただけだった。
その変わり、無愛想な男の声が聞こえて来る。


『それにしても、マスターでもないお前が、なぜ我を使って晶術が使えたのか』
『そもそも詠唱もなかったしねぇ』

若い男の声が間を割るようにして入って来て、は後ろを振り返った。
マリアンとのデレデレイベントを終えた後とは思えない、冷やかな顔をしたリオンが屋敷から出て来る。

「それはまあ…なんと言いますか…」

妄想力で補えればなんでも出来ちゃうみたいなんですよね、わたし。
なんて言えるはずもない。

さすがに調子のいい訳を思いつかないは、
「さあ?」
と、素直に小首を傾げた。

「なんででしょう?わたしにも分かりません」
「分からないって、アンタ…」
呆れたルーティの声が追ってくる。えへへ、と笑っていると、冷淡な言葉が後ろから刺さった。


「いつまで話してるつもりだ」
「なによ、アンタがちょっと待ってろって言ったんでしょ!」

すかさず言い返したルーティも、手元のスイッチを見せられれば押し黙るしか出来ない。
そのままの横をスタスタと通り過ぎていく小さな背中に、しおりは声をあげた。


「今日からよろしくお願いします! リオン様!」


まあ、無視されたが。
は笑って、その背中を追いかけるように走り出した。

いま、
ここから


が飛び込んだ運命の旅が始まるのである。