ドリーム小説


話しが済むとすぐ、ヒューゴとリオンはルーティ達の意識が戻ったと言う報告を受けて、城へと向かった。


それにしても、金持ちと言う人種はすごい。
前金だと言って渡された賃金は、こちらの金銭価値にまだ馴染んでいないでも、すごい額なのだろうと想像がついた。
こんなお金がポンと出てくる生活……してみたいような、そうでもないような。

考えながら、はヒューゴ邸の玄関へと向かう階段を一歩一歩と降りていく。

ゆっくりしていていい、とヒューゴは言っていたが、
このあとすぐにストレイライズ神殿へと向かう事になるので、
当面の資金を手に入れたこのうちに、武器屋へ行こうと思ったのである。

「あのー」

とは言え、黙ってお屋敷を出て行く訳にもいかない。
は静けさに包まれた廊下へ向けて声をあげた。
「すいませーん」

誰か気付いてくれるといいけれど。

すると。
「はい?」

鈴の様な声が、一階の奥から聞こえて来る。
これ幸いとが声の聞こえた方を覗き込むと、濡れたカラスのような黒髪を持つ美女と目があって、はその美しさに思わず息を呑んだ。

女性は突如動きを止めたに小首を傾げたが、すぐに大きな目を細めるようにして微笑む。
「ヒューゴ様から伺っております。様ですね?メイドのマリアンと申します」

だろうな、と、は内心頷いた。
むしろマリアンじゃなければ、
美人ばかりを囲んでいる変態親父と言う肩書を(勝手に)ヒューゴに進呈しなければならない所であった。
あまりの美しさにはどこを見ていいのか分からなくて、思わず視線を逸らす。
もっとなんというか――幸の薄そうな儚げ美女を想像していたのだけれど。
大輪の花のような美女を前にしては、敗北感すら感じられない。同じフィールドの生き物とも思わなかった。
は視線を泳がせる。

「あの、ゆっくりしていていいと声は掛けて頂いたのですけれど、
出来ればちょっと…武器でも見に行きたいなあ…なんて…」

「かしこまりました。ヒューゴ様とリオン様がお戻りになられましたら、伝えておきます」
「お手数おかけしてすみません」
「いいえ。これからリオン様にお仕えされると聞きました。こちらこそよろしくお願い致します」

何という物腰の柔らかさ。仕草の美しさ。完璧さ。
あの美少年にして、この美女あり…。

代われるものならヒューゴと代わりたい、
は結局眩しいマリアンを直視できないまま、そそくさと挨拶を交わしてヒューゴ邸を跡にした。











道具屋で熱毒マテリアルを購入したは、
後でスタン達にリライズしてもらおうとポケットにしまって武器屋へと向かった。

神様(見習い)に遭遇してから、落とされ、リオンとのドキドキ(戦闘)イベントを乗り越え…と、
怒涛のように過ぎ去って行ったので、自らを顧みる余裕もなかったが、
ここに馴染むよう、色々とキャラ変されているようだ。

身体能力を極限まで上げてくれていると言うだけあって、
今までの人生で見たこともないような健康的体系である。

陽にあたって肌なんて少し浅黒いし(リオンとマリアンを見た後だから尚の事黒く見える)、
引っ込む所が引っ込んでいる(マリアンには負けてる/出てる所が出てないから)。

そのサイズをキッチリ図ったようにジャストフィットしている服は、シンプルで動きやすさを重視してあるようだった。
それでいて、この世界にもしっかりと馴染んでいる。これぞRPG衣装と言う雰囲気。
シンプルイズザベストなつくりで、街行くお姉さんたちのようにお洒落とは決して言えないが、
リオンとマリアンを目の当りにした今では、分相応な気がしてしまう。


けっして僻みなんかじゃないんだから!


声高らかに叫びたい気持ちを抑えて歩いていると、武器屋が見えて来た。
さすが王様の足下にある街なだけあって、置いている武具も華々しいデザインな上、磨きこまれている。

「おお」
と、が感嘆の声をあげていると、店主が「何をお探しだい?」とぶっきらぼうに尋ねて来た。RPGだ。
は浮き足立って首を巡らせる。
「何…と、言われましても…」
剣に、斧、弓。
並べられている武具を一巡するように眺めたあと、首を傾げた。

「どれがいいかなあ。たぶん、どれでも使おうと思えば使えるんだろうけれど」

リオンとの戦闘を振り返るに、身体能力と言うよりはイメージで戦っているような気がした。
こういう動きを取りたいと言う意識に引っ張られて、身体が動くようだ。
妄想力もとい想像力で戦うのなら、やっぱり想像しやすい剣とか弓とかかなぁ、とは思いながら物色する。


やっぱり想像力をかきたてるようなデザインがいいに決よね。

すると、ふと通り過ぎた視線に何かが引っかかって、は視線を戻した。
「あ」
思わず声があがる。

「あの、親父さん。それ…」
が指差した先にある剣を見た店主は、眉間に皺を寄せた。

「ああ。造りはいいんだけれどね。イマイチこの店ではパッとしないから、どんどん奥に行くばかりだよ」

そりゃぁ、金の淵で彩られていたり、
ちょっとおしゃれな宝石があしらわれているような武器には見目劣る。

店主は他の剣をどけるようにして、その一本を取り出した。

受け取ったは、まじまじと眺める。
日本刀のように、しゅっと長い刃が伸び、剣の柄には大きな石。
確かに洒落気には欠けるし、愛想もないデザインだ。
じゃあ、何がいいって、見ようによってはソーディアンに見えなくもない。

持っただけでディスティニーを満喫しているような気持ちになる。

は「ぉおおお、滾る…!」と剣を持つ手を震わせると、
クリスマスと正月が同時に来たような顔で、キラキラと店主を見上げた。


「親父さん!これ下さい!!」