ドリーム小説

背後には、気絶しているルーティとマリー。
目の前にはコテンパンに伸された兵士たちが転がっていて、

のお尻の下で潰れているスタン。

明らかな敵意の視線を向けられているのを感じたは、背筋が冷たくなっていくのを感じた。
「…マジか……」
この状況で思い当たるシーンなど、一つしかない。


懐かしきかな、初プレイ。
突然始まったリオンとの戦闘に、慌てて使ったアップルグミ。
リオンの一撃で幕を閉じた戦闘。
一分もかからなかった幕引きに、
負け戦だと知っていたらアップルグミ等使わなかったのに、
と、遠い目をして画面を見ていた自分が走馬灯のように走った。


おそるおそる仰ぎ見ると、 冷淡で色のない瞳をしているリオンと目があう。

その間にも何とか状況を好転させることは出来ないものかと、脳みそフル回転で考えてみたであったが、すぐにオーバーヒートを起こした。
固唾を呑む。

(これが……殺気と言うものか…)

指一本でも動かそうものなら、すぐにでも首を落とされてしまいそうだ。
一挙一動も許さぬ緊張感が辺りに張り巡らされている。

状況をどう見ても、はルーティ一味と思われているに違いがなかった。
さしずめ仲間を助けるために、さっそうと二階から飛び降りたが、尻もちをついた間抜けな人間…と言う所だろうか…。

両手を挙げて素直に投降したとして、いきつく道は一つ。留置所。
かわいくてえげつないティアラを付けられた自分が容易に想像ついたは、ぞわっと背筋を震わる。

それは避けたい。
絶対に心臓に悪いし。

例えばその後、スタン達に混じって、
リオンと行くストレイライズ神殿への旅チケットをゲット出来ると言うのならば、多少の危ない橋は仕方がないかもしれない。
だが目が覚めたルーティが「誰それ?」と言えば、は無罪放免。一味に間違えられた間の悪い通行人Aだ。

どうしたものか、
呼吸をするのもやっとの中で、思考だけはやたら忙しなく過ぎ去っては消えていく。


その時ふと、
視界の端にディムロスが落ちているのに気が付いた。

(いやいやいやいや、その選択肢だけは絶対にない!)

いくら都合良くレベル上位設定なんてものを組み込んでもらったとはいえ、
普段運動すらしないがリオン相手に剣を取るなんて、自殺行為も甚だしい。と言うか殺される。

そうなると、やっぱり選ぶのは後にも先にも……両手を挙げて投降、に限られる。
どう考えてもそれしかない。

あとはなるようになるに任せるしかない、と、は諦めた。

「あ、の…」
絞り出した声はガサガサで。
指一本の弾みに殺されそうな空気の中、は「参りました」と両手をあげようと、震える指先を動かした。

刹那。

目にも留まらぬ速さでシャルティエを構えたリオンが突撃して来て、
予想だにしなかった動きに、は「ぎゃぁぁぁああァァア!」と断末魔に似た悲鳴を上げる。

投降させるより、戦闘不能にしたほうが手っ取り早い。
端から投降させるなんて甘ったるい選択肢はリオンの中でなかったのだろう。
その事にワンテンポ遅れて気付いたは、全身の毛が総毛立つと、
ほぼほぼ反射的に転がっていたディムロスへと手を伸ばしていた。

キ――――――ン、
と、金属がぶつかる甲高い音が耳につく。


「…ふん…」

麗しき声がすぐ近くから聞こえて、

「そこに転がっている連中よりは腕が立つんじゃないか」

ディムロスの柄が冷たい感触に、
は「もぉおおおお!」と腹の底から叫んだ。
目尻からぶわっと涙が溢れだす。

(恐いけど、やるしかない!)

覚悟なんて決まらないまま、押し負けまいとは踏ん張る。
火事場のバカ力なんてものを体験する日が来るとは思わなかったが、
力任せにディムロスを押していると、徐々にシャルティエが後退し始めた。

(とりあえず、このまま押し切る…!)

かと思いきや、リオンは早々に見切りをつけて後ろへと跳び下がった。
そうなると押し続けていたは勢いに任せて前へと転がる訳で…。

まんまとはまったリオンの術中に、は「くそ!」と悪態をつくと、咄嗟に地面に手をついた。

(なるようになれ!)
砂を掴めるだけ掴むと、は心の中で叫んで、リオンが着地した方向へ向かって容赦なくまき散らす。
「っ」
その隙になんとか立ち上がっただったが、
砂煙の中を光っている剣の切っ先が見えると、ひゅ、と息を呑んだ。
間一髪で避けると、頬にピリッと焼けたように痛みが走る。

痛いとか、熱いとか、
そんな事に浸っている暇はない。
再び地面に両手をついたは、シャルティエを振り上げたリオンの脇腹を蹴り上げた。


「――ッ」

確実にクリティカルヒットだと思ったのに、
寸での所でリオンは手で蹴りを受け止めていた。
ただ勢いだけは殺せなかったようで、低く唸ると、横に吹っ飛んで行く。

(やるじゃないかわたし!やるじゃないか、神様見習い!)

喚起余って心が震えそうになったのを、冷静であろうと務めた。
体勢を立てなおされたら厄介だ。
は息をつかずに、リオンのおおよその着地点へ意識を集中させながら叫ぶ。


「ふぁ、ファイヤーボルト!」

火の玉がリオンの足元をめがけて飛んで行く。
それまた跳ぶように軽く避けたリオンに、は続けざまにファイヤーボルトを唱えた。
なるほど身軽でスピード重視なキャラクターなだけあって、ギリギリだが確実に避けていく。


がもう一度ファイヤーボルトを唱えようと口を開いた時、


『詠唱がないだと!?』

と言う驚いた声に度胆を抜かれた。

「な…っ」


腐の道を進んで十何年。
何十回と聞いたこの声を、聴き間違えるはずがない。

「な、なんでわたしにも声が聞こえ…!?」

動揺は大きな隙を呼んだ。
ディムロスを白黒と見ている隙に、一気に間合いを詰めて来たリオン。

がハッとした時には、もう目前まで迫って来ていて。
その美しい中に意志の強さを宿した顔に見惚れる間もなく、
腹部にめり込むような痛みを感じると、の意識はブラックアウトし途切れた。