ドリーム小説
きっとたくさんの人が願った、貴方の幸せ。
数多大勢の中の一人であるわたしだけれど。
それが貴方にとって大きなお世話だろうと分かってはいても、
願わずにはいられなかったのです。
どうか
どうか貴方に、
『裏切り者』と呼ばれぬ未来を…。
(落ちてる、落ちる、落ちてる、落ちてる…っ)
舌を噛まないように唇を噛んで、
心臓が飛び出ないよう両手で抑え、
それでも込み上げてくる恐怖に耐え切れなくなったは、仕舞には見るのも怖くなって手で顔を塞いだ。
硬直している間にも、落下のスピードはどんどんと加速していく。
いつまでたっても地面に足がつかないのも十分恐怖だが、
このスピードで地面に落ちた時はどうなるのか考えると、吐きそうになった。
出逢い
01:
思い返せば、
事のはじまりも唐突だった。
ふと気が付いたら、真っ黒な空間に立っていて、
突然の出来事に付いて行けずに立ち尽くしていると、目の前に真っ白な服を着ている男がスライディングで現れたのだ。
「わ!?」
「いやいや、良い驚きをありがとう」
数多いる観客に礼を言うような仰々しい動きで、男はに恭しく頭を下げた。
「はじめまして。神様です。………見習いだけれど」
ぽそ、と尻すぼみになりながら付け加えられた言葉を、は聞き逃さない。
「今一番大事な部分小さかったですよ!? 見習いって、小さかったですよ!? そんな、回るお寿司百円……より。じゃないんですから!もっと声高に言って下さい……って、神様?!」
何だその見るからに怪しい自己紹介は。
まだ詐欺師ですと言う方がマシな気がする。
が何とも言えない顔で男を見ていると、神様見習いを名乗った男は一人頷いた。
「うん。俺の神様への合格は君に掛かってる」
色々とすっ飛ばし過ぎだ。
目の前の男を怪訝な瞳で見ながら、は一歩二歩と後退さっていく。
「…あの、どういう意味で?」
おずおずと尋ねた。
こういう相手は、変に突っ込まずに話を聞いて、早めにさよならをするのが一番波風の立たない方法だ。
そうしていつでもさよなら言える体勢を取り、は改めて思う。
この先も見えない真っ暗な場所で、一体どこへさよならしようと言うのか。
そう考えると、目の前の男の戯言も、なんだか真実味を帯びてくる。
ここは一体どこなのか。
の動揺など殊の外どうでもいい様子で、神様見習いはマイペースに人差し指を立てた。
「人の願いを一つ聞く。それが試験の内容でね」
「はあ」
「まあ、人の数だけ願いなんてものはある訳だが、ようするに試験とはインパクトだ。よって、悩んで悩んだ挙句、君に賭けて見る事にした」
「…えぇっと」
「リオン・マグナス。かな?」
「へ?」
間の抜けた声を上げたは、黒々と開いた瞳で神様見習いを見つめる。
「君が胸の内で、やたらとうるさく願っていただろう。会いたい。幸せになって欲しい。――裏切り者などと、呼ばれて欲しくない。と」
にやりと笑った神様見習い。
は呆気に取られたまま、固唾を呑んだ。
「ぼくは君の願いを叶えようと思う」
手を叩き、なんてことない口調で言う男。
「だから君はその世界を存分に堪能して欲しい。そしてぼくはその様子を試験に提出する。
君はリオン・マグナスとやらを救う努力が出来る。それ次第でぼくは試験に合格出来る。どうだい? いい話だろう」
「わたしがリオンを救うって…」
どこにでもいる女がか。
どうやって。
「もちろん。向こうで簡単に死なれても困るからね。その世界を生き抜けるよう、力も与えようと思う」
言いながら、男は真っ直ぐとを指差した。
「君次第だ。あとは好きに生きてくれ。――まあ、ぼくと試験管が見ている事さえ覚えててくれれば構わないかな。試験が終われば、無事に君を元の世界に戻してあげよう」
「本当に、そんな事が…」
「面白い話を作ってくれることを期待しているよ」
じゃあ、またね。
ものすごく軽い口調で言って手を上げた神様見習いは、静かにその手の平を下へと下ろした。
その瞬間、の身体はどこかへ降下を始めたのだ。
(マジ無理、もう無理!)
思い返すと、再び現実に直面した。
はぐるぐると目を回す。
何十回も繰り返している言葉がだんだん遠くなっていっている気がするのは、意識が薄れつつある証拠だ。
地面にぶつかった衝撃でのお陀仏か、
衝突する前に心臓が止まってのお陀仏か、
もしに選択権があるとするならば、ぜひとも痛くなさそうな後者を熱望する。
(もぉ、ホントに…)
無理。
意識がすぅ、と抜けて行くのが分かる。
糸のように頼りないそれを潔く手放そうとした時、
「ぎゃ!」
どすん、とのお尻が柔らかい何かにぶつかった。
ちなみに悲鳴はのものではない。男の声だ。
あれほどのスピードで落ちていたとは思えない穏やかな衝撃に、すぐ下から聞こえた声。
おそるおそると視線を巡らせたは、
あたりに倒れている甲冑姿の兵士達と、
怪訝な顔でこちらを見ている黒髪の美少年とを見て、嫌な予感を覚えた。
数分をかけるような気持ちで、ゆっくりと視線を下へ向ける。
「げ」
うつ伏せで倒れている男をどうやらクッション替わりに着陸したらしい。
見えうる範囲の状況と、そして下敷きにしている男の風貌から推察するに、考えうるシーンは一つしか想像つかない。
その長い金髪を瞳に映したは、
「…マジか……」
と、小さく低く呟いた。
話を面白くしようとしすぎではないのか、神様見習い。
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手直しして再挑戦。今度こそ書き上げれたらいいな(希望)